やばいブログ

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【ドキュメンタリー】【やばい映画】『おはよう - 参政党の歩み -』感想 何者にもなれなかった男の『ビューティフル・ドリーマー』

このブログのタイトルは『やばいブログ』ですが、実は最初『やばい映画ブログ』にしようと思っていました。

カルト宗教とか、陰謀論とか、その他よくわからないことをしている映画とか、そういう「ほとんどの人の鑑賞の選択肢にも入らない」ような映画をわざと鑑賞して感想を書いてみようかな、と思ったのです。

まあ色々考えた(内容を狭めるようなタイトルをつけると後々困るんじゃないか、とか)結果、好きなドキュメンタリーの感想を書いたり、陰謀論ウォッチ記事を書いたりするブログになったわけですが(とはいえ当初のコンセプトは捨てていないつもりです)、この度、当初の目的に立ち返るような記事を書くことができました。

というわけで、今回は参政党の公式ドキュメンタリー映画『おはよう - 参政党の歩み -』を鑑賞しましたので、内容と感想を紹介していきます。

作品紹介

このブログをご覧の方々で「参政党」という存在を全く知らないという方は多分いないと思いますが、一応説明しておくと、神谷宗幣という元吹田市議会議員が2020年に設立した政治団体で、今年の参院選で神谷が比例当選し、国政政党の要件を得ています。

新興政党ながらSNSなどを活用した積極的なアピールで規模を拡大し、公示日前に3万人の党員3億円以上の寄付金を集め、参院選でも176万を超える比例票を獲得し注目された一方、「小麦を食べると水銀中毒になる」「ワクチンは殺人兵器」などの反医療的言説や「世界は国際ユダヤ金融資本に支配されている」という陰謀論を公式に主張していることで悪い意味で話題となることのほうが多い政党です。

そんな参政党は、参院選後に公式ドキュメンタリー映画の制作を発表し、9月30日から全国で公開されています。後述の通り選挙期間前から撮影を始めているため、おそらく選挙の結果とは関係なく発表される予定だったものと思われます。

本作は一般の劇場では公開されておらず、全国の参政党員の手によって自主上映されており、チケットは参政党の公式サイトからでないと購入できません。

というわけで、筆者は実際にチケットを購入し鑑賞してまいりました。某所に作られた簡易的なシアター。周りの観客は当然皆参政党員なのはマスクをしているのが筆者だけであることからもビンビンに伝わってきます。

参政党の、参政党による、参政党のための映画。一体どんな世界が展開されてしまうのか?筆者はこの空間に耐えられるのか?以下レポートです。

内容

長い

この映画は全部でなんと3時間弱あります。筆者の鑑賞した回では主催者の方が適当なところで休憩を入れてくれましたが、本編はインターミッションなし。『RRR』の論争なんかどこ吹く風って感じです。

ドキュメンタリーで長尺の作品はそんなに珍しくありません。最近の作品でも『香川1区』や『時代革命』は2時間半ありましたし、原一男監督の最新作『水俣曼荼羅』に至っては6時間以上ありました(筆者未見)。とはいえ、基本的には100分前後の作品がほとんどです。

では、この映画はなぜこんなに長いのか?実は、今回全国の選挙に出馬したうち半数近く、20人強の候補者の選挙運動の様子を一人ずつ紹介しているんです。一人あたり数分はかけていたので、少なくとも映画の半分くらいはそれで埋まっていたと思います。そりゃ長いわ…

まあ色んな人の主張を見れるのはいいかな…と思っていたんですが、観ているうちに次第に違和感を感じ始めます。候補者の演説やインタビューが何度も挿入される割に、個人の主張が全然伝わってこないんですね。

皆「今の世の中はこんなところがおかしい」とか「これまでの政党にはこんな風に魅力がない」とか言うんですけど、じゃあどうするのよ?という点が全く語られません。よく「野党は反対してばかりで対案がない」と言われることがありますが、本作を観てから言ってほしいです。

参政党自体にそういうビジョンが全くないのかというと、そういうわけでもありません。「農業を全部有機にして免許制にする」とか「デジタル日本円をブロックチェーンで発行する」とか色々あったはずなんですが、そういうのは全然出てきません。意図的としか思えませんでした。

何でこれを撮らないの!

おそらく制作側の意図としては、参政党の「自分達で政治を作る」というコンセプトを強調したかったのでしょう。時々挿入される街頭インタビューも「今は投票したい政党や政治家がいない」「政治に興味が持てない」という回答を積極的に拾っていました。

一応、聴衆だった人が立候補者になった例とか、神谷が党員に直接出馬願いの連絡をしているところなどが描かれるのですが、それって別に他の政党でも似たようなものだと思うんですよね。他の政党とどこがどう違うのか具体的にアピールすべきだったと思います。この辺、いまいち的を外している感じが否めません。

そもそも参政党に集った一般の人たちって大抵は元々武田邦彦か吉野敏明のファンだった人で、反ワクチンとか反慣行農業とか反主流医療とかの具体的な主張に惹かれて支持している人たちなわけで、作中で強調される「そういう部分」には大して興味が無いのではないかと思います。

  • 実際、一緒に観ていた党員の人たちもその点は微妙な反応に見えました。

先述したとおり本作で紹介される候補者は全体の半数ほどです。この候補者の選定にも偏りが感じられました。埼玉選挙区の坂上仁志とか、大阪選挙区の油谷聖一郎とか、そういうちょっと「無難」な感じの人たちが目立ち、ウォッチャーが注目している「濃い」感じの人たちは全然映ってなかったです。

  • 一応「ホツマツタエ研究家」として知られる秋田選挙区の伊東万美子は一瞬チラ映りしましたが、記念撮影の一コマが出てきただけ。

あと、非常に不自然だと思ったのは東京選挙区の河西泉緒が全く出てこなかったこと。確かに個人的トラブルを抱えているらしいとはいえ、最重要選挙区かつカメラ映りも良い河西が何故ハブられていたのか本当に謎で、ウォッチャーとして観ていた筆者も「なぜわざわざ内輪で公開しているのだろう?」と非常に不思議な気持ちになりました。

  • これは単なる邪推なんですが、もしかしたら本当は劇場で公開する予定だったのが、何らかの理由で取りやめになったのでは?とも思いました。

時々「子どもたちは運動会もマスクをしなければならない異常な社会が!」とか「欧米では禁止されているグリホサートが!」とかそういうヤバそうな発言は出てきますが、続きが語られる前に画面が切り替わってしまうので、非常に中途半端な感じ。

本当、何のための公式映画なんだ!と、ここはちょっと本気で不満なところでした。

穴兄弟

前半最大の盛り上がりポイントが、5月8日にパシフィコ横浜で行われた「イシキカイカクサミット2022」の記録映像です。「イシキカイカク」というのは神谷宗幣が経営する企業の名前。このイベントは参政党の政治資金パーティーを兼ねており、参加料は1人2万円と高額でした。

当然、舞台や客席なんかが映し出されるわけですが、ここでちょっと気づいたのが、本作はやたらと「被写体を回転軸としてぐるっと弧を描くようなカメラワーク」が多用されています。街頭演説やビラ配りの映像もそうでしたが、このシーンでは特にグルグル回っていたのでコーヒーカップに乗ってる気分でした。

イベントには「ピッチコンテスト」と称し、一人ずつ短いスピーチで参加者を鼓舞するさながらマルチキラキラしたセミナーという感じのコーナーがありました。ここでちょっと話題になったのが、窪山紗和子(後の参政党福島支部長)という人が、スピーチの後におもむろに法螺貝を取り出してブオーッと鳴らすパフォーマンスをしたこと。

作中でも窪山の映像が出てきました。ところが、前段のスピーチがカットされてしまったため、突然法螺貝を吹いて喝采を浴びる謎の映像になってしまっており、筆者はちょっと笑いそうになりました。まあ、自分含め鑑賞者に経緯を知らない人は誰もいないので特に問題はないのでしょう。まさにファンムービー。

  • このイベントには反ワクチン学者として知られる井上正康なんかも出演しているのですが、やはり映像は全カットでした。わかってなーい!

イベントのクライマックスはザ・マスミサイルというバンドの生演奏。かつてNARUTOのエンディング曲を担当したりとそれなりに売れていたのですが、ボーカルの高木芳基が神谷と知己の関係であり、今では完全に参政党シンパとなってしまった方々です。

司会者の紹介スピーチが流れます。「高木さんと神谷さんの出会いのきっかけというのが、なんと神谷さんの大学時代の彼女が、高木さんの高校時代の元彼女だったという…」。そして高木が「神谷くんは兄弟みたいなもん」。えっ、何、下ネタ?

そして、マスミサイル制作の参政党公式ソング「おはよう」の生演奏が始まります。「おはよう」は映画のタイトルにもなっている通り参政党の事実上のキャッチコピーで、Tシャツになっていたりします。客席に近づいて一緒に歌ったり、やっぱりプロという感じ。

  • ちなみに「おはよう」というワード自体を考案したのも高木だそうです。

この「おはよう」は街頭演説でも頻繁に流されており、作中ではインサートの頭でサビの「さあ〜目覚めよう〜♪」というフレーズが必ず出てくるので洗脳を受けている気持ちになりました。


ここから後半部分です


主人公・神谷宗幣

本作は構成がちょっと謎で、前半でずっと東京周辺を舞台にしていたと思いきや、急に関西に飛び、また東京に戻り、四国へ行って、また東京…とあちこち場所が移動してしまいます。展開が分かりづらい。

で、まあ、これは筆者が鈍かっただけなんでしょうが、実は本作は色々な候補者を写しつつも、基本的には神谷宗幣を中心に進む映画だったんですね。視点の移り変わりは神谷の移動経路をそのまま反映していたわけです。

というわけで、「主人公は神谷宗幣」ということを意識しながら鑑賞していくと、なんとなく本作の「筋」がわかってきました。本作はとにかく神谷宗幣の「頑張ってるところ」をたくさん見せる、という雰囲気の映画だったのです。

あちこちの演説会場を奔走し疲労困憊になる神谷。オファーした立候補予定者から辞退の連絡を受け涙ぐむ神谷。全力のシャウトで声がガラガラになったままゴレンジャーたちと談笑する神谷。とにかく神谷宗幣を中心に全宇宙が動いている感じが演出されていました。

  • 一応説明しておきますが、ゴレンジャーというのは比例代表で出馬した5人の候補者(武田邦彦、松田学、赤尾由美、吉野敏明、神谷宗幣)のことです。男4+女1なのでゴレンジャー。

まあこれまでの参政党というのは基本的に神谷宗幣の個人的人脈によって成り立っている団体なのでそのフレーミングある意味本質を突いているとは思いますが、映画の表向きの主張である「みんなで作る政党」というコンセプトが曖昧になってしまっている感が否めませんでした。

一方、個人的に面白いと思ったのは、吉野敏明との強い友情が垣間見えること。作中、神谷とツーショットで映っている場面が最も長い相手は圧倒的に吉野でした。吉野は時に神谷を牽制しつつも、単独のインタビューでは「こいつの本気についていくしか無い」というようなことを述べていて、実に熱い。こういう関係っていいですよね。

あと、神谷の過去とか普段の様子についての家族や周辺人物の発言が得られたのも興味深かったです。実は、これらの描写から神谷宗幣という人間のある種の「狂気」を見出すことができるのですが、それについては後述します。

ただ、やっぱり全体としては選挙運動のダイジェスト映像という感じで、ドキュメンタリーとしてはNot for me感がありました。

あの時、実はノーマスクだった!

本作のクライマックスは当然選挙戦最終盤の模様です。選挙を取り上げたドキュメンタリーではここが監督の腕の見せ所になるわけですが、本作の制作陣が満を持して持ってきたのは7月8日の札幌での神谷の演説

そう、この日は安倍晋三元首相が演説中に銃殺される大事件が起きていました。神谷も当然そのことについて言及しています。「どんな理由でも暴力はよくない!」と序盤から既に感極まっている感じの神谷。

そして、次のカットで一言「安倍さんがお亡くなりになったそうです」。聴衆からは「えーっ!」と驚きの声が上がります。カメラは沈黙する神谷にズーム。すると、聴衆の中から「黙祷しましょう!」という声が。そして全員で黙祷。このシーンは観ていて結構感動しました。

で、最終日、東京に集結したゴレンジャーが映し出されます。途中、吉野の応援演説に駆けつけたHEAVENESEがなんの説明もなく映ったりしますが、最後は芝公園で行われたマイク納め式の模様。主催者発表1万500人が集まったと言われています。

ここでもやっぱり赤尾由美の「アンチは色々言いますけど、明日私達は国政政党になります!」という発言や、最後の「参政党コール」などが引用され、個別の主張内容は全然出てきません。河西泉緒も居なかったことにされています。

実際にはここでも吉野敏明が「製薬会社もマスコミもロスチャイルドに支配されていて、日本人は虐殺されているんですよ!」というような発言をしていますが全く使われていませんでした。筆者はこの現場に実際に行って、一通り演説を聞いていたので超違和感ありまくりでしたね。あんなに盛り上がってたのに…。

そして、いよいよ投開票日。ゴレンジャーたちが選対本部の楽屋でNHKの中継を見守っています。面白いのは、後援会というものが特に無いためか、5人だけの部屋でくつろぎながら見ていたこと。新興政党ならではという感じですね。

しかし、神谷の当選は早朝に確定したので、明らかに皆疲れた感じでした。記者会見も記者の数は少なく、また発表も淡々としていて、ここまでの盛り上がりに比べてテンションが随分違うのが逆に新鮮な感じでした。

さて、本作のラストシーンは神谷のインタビューをバックに国会初登庁の映像が映し出されるのですが、この初登庁、メディアに掲載された写真では神谷はしっかりマスクを着用していて、ウォッチャーの間では「やる気があるのか」とツッコまれていました。

映画では車から降りて正門に向かうところが撮影されているのですが…なんと、そこにはノーマスクで堂々と歩く神谷宗幣の姿が!やるじゃん神谷!まあ周囲に言われて渋々着用したんでしょうね。

そうなると気になるのが、神谷はどの時点でマスクを付けたのか?という問題。残念ながら、映画は国会正面に向かって歩く神谷のカッチョイイ後ろ姿で終わってしまったためこの謎は解明されませんでした。というわけで、3時間の鑑賞は終了です。

感想

神谷宗幣という「狂気」

先述したとおり、筆者は最初気づいていませんでしたが、この映画は結局神谷宗幣のファンムービーであり、党員の鑑賞者は基本的に神谷の仕草を眺めることでそれなりに楽しめているわけです。

確かに、神谷は作中で様々な表情や言動を見せていて、傍から見ているとなかなか楽しい部分はあると思いました。ただ、これを政党、もとい一組織のリーダーの行動として見ていった場合、なかなか怖い部分を感じたのも事実です。

作中で、(というより参政党において)神谷宗幣は「いじられキャラ」的な側面を持っています。吉野敏明が「参政党には『神谷宗幣被害者の会』というのがある」と発言したり、「かつて神谷さんのスタッフをしていましたが、そこでのパワハラ髪が抜けてしまったので当選したらウィッグを奢らせます」と自虐ネタを交える人もいました。

  • この時、カメラは「〜髪が抜けてしまいました」までずっと聴衆を後ろから写しており、次のカットで本人がアップになるという悪意ある編集がなされていて笑いそうになりました。

しかし、神谷のそういう側面はどこまで「キャラ」なのだろうか?と感じる部分もちらほらありました。赤尾由美は「神谷宗幣1日で四国から青森に飛ぶというとんでもない行程を組まれた」と苦笑気味に暴露しているし、作中の神谷の移動経路もなんかヘンテコでした。

そして、個人的に非常に印象に残っているシーンがあります。とある講演会の楽屋で、真剣にスライドの最終チェックをしている吉野敏明に対し、神谷が突然「そうだ、吉野さんのお子さんのお母さん出しませんか?」と提案します。「えっ?」と驚く吉野。

「吉野さんのお子さんのお母さん」は吉野敏明の妻に対する参政党内での渾名です。「でも準備とか何もないしなあ」と逡巡する吉野に対し、神谷は身を乗り出し「せっかくいらしてるんだし、登壇させたら盛り上がりますよ!」と満面の笑みで断固主張します。

そして、次のカットでは恥ずかしそうに壇上に上がる「吉野さんのお子さんのお母さん」の姿。吉野は聴衆に対し、「今日はせっかくなんで喋らせようと僕が呼びました」と説明し、会場は大盛り上がりになりました。

このシーンを見て筆者は「神谷って怖い奴だな」と軽い恐怖を感じました。だって、発表直前に思いつきで予定にない登壇者を追加するんですよ?多分演出ではなかったと思うし、少なくとも監督はこれを「いいシーン」だと思ったから使ったんですよね。かなり怖い感覚だと思います。あと、吉野敏明は凄くいい友達だと思いました。

また、様々な表情を見せるというのは、神谷がそれだけ感情の起伏の激しい人間であることも意味しています。笑顔で恐怖の提案をする神谷もいれば、上手く行かないことが起きていきなり涙ぐむ神谷もいるわけです。

その感情がどこから来るのか?という一つの要素として、参政党以前の神谷を知るマスミサイル高木や神谷の妻の発言が手がかりになります。どちらも「10年くらい燻っていた」「苦悩していた」という内容のことを語っていました。

要するに神谷は長い間「何者でもない人間」だったということです。実際、神谷は吹田市議に当選後、当時の政治の荒波にもまれ急遽自民党支部長に抜擢、しかし落選してしまい政界から姿を消しています。「燻っていた」のはこの時期のことでしょう。

神谷が熱い大義のある人間であるらしいことは確かで、やりたいことは頭の中で色々と膨らんでいるのでしょう。だからこそ、神谷は自分が「何者かでなくなる」ことに強い恐怖があるのではないのか?と思ってしまいました。まあ、映画の中の印象なので、実際のところはわかりませんが。

政界のビューティフル・ドリーマー

本作の序盤、インタビューの中で赤尾由美が「参政党を『大人の部活動』のようにしていきたい」と答えている場面がありました。この「大人の部活動」という表現は、(赤尾の意図とは別に)参政党の本質を表す非常に良い表現だと思いました。

参政党の盛り上がり方は、一般的な政治運動のそれというよりは「文化祭前日」という雰囲気があります。全員が明日に向かって慌ただしく動き回っている、けれど誰もやがて来る「明日」に何をすればいいのかは余り考えていないという、ひたすら熱気だけが沸き立つ雰囲気です。

そこで思い出されるのが押井守監督の名作『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』です。超有名映画なので内容は省略しますが、サブカルチャーにおけるいわゆる「ループもの」の骨子を形作った作品として知られています。

ビューティフル・ドリーマー』で個人的に面白いと思うのは、ループする時間を「文化祭前日」に持ってきたところです。この作品はループの原因を「永遠に楽しいことだけをしていたい」という個人の欲望に結びつけているわけですが、それを「文化祭前日」という「必ず終わりの来る宴」で表現しているわけです。

で、この「永遠に楽しいことだけをしていたい」という雰囲気は、参政党にも見られると思うんですね。確かに選挙戦において熱量というのは大事ですし、楽しくやりたいというコンセプトもいいとは思うんですが、その「楽しいこと」とはいつか折り合いを付けなければならないはずです。

しかし、参政党の人たちはずっとこの「楽しいこと」から離れられないでいて、現実の政治の場というものにあまり真剣に向き合っていないように見えました。支持者が批判的視線を向けられることに対し過剰に反発するのもそこに原因があるように思えます。

そう考えてみると、本作の全体に漂う「その場にいた人しか楽しめない」雰囲気というのは、ちょうど文化祭の振り返りムービーを見ている感覚に近いと思います。しかも、全編が「準備」で構成されている、楽しい瞬間だけが残されたムービーです。

  • 一緒に鑑賞していた党員の方の中には実際に「あ、あれ〇〇さんじゃない?」「あそこに私いた!」と盛り上がっているグループがいました。

つまり、本作は「大人の部活動」たる参政党の「終わらない文化祭前日」を疑似体験するための作品だった…と言っても良さそうです。そして、ループの中心にいるのは、何者でもなかった、そして今は国会議員の神谷宗幣という男。果たして誰がループから目覚めさせ「おはよう」と言ってくれるのでしょうか。

おわりに

正直な話、自分が本作に期待していたものとだいぶ違うものを見せられたので、感想を書くのにちょっと困りました。じゃあ書くなよ

ただ、神谷宗幣を見るための映画だと理解すれば、彼が結構ヤバい人なのがわかって結構面白かったです。やっぱりドキュメンタリーはヤバい人が出ていると盛り上がりますよね。まあ3時間は流石に長いと思いますが…。

この記事を書いている最中に興味深い記事が流れてきました。朝日新聞の神沢和敬記者による参政党のルポで、ここでも神谷宗幣を「参政党員にとってのアイドル的存在」と解釈しています。またこの記事には「足裏をもまれて痛みを我慢する神谷宗幣」という面白写真が何故か載っていて、神沢記者も何やらハマっている感が出ていました。

さんざっぱら勝手なことを書いてしまいましたが、神谷が多くの人に愛されているのもまた事実。それは「カリスマ」と言い換えることもできるだろうし、運営面の不安とか、主張への賛否とは別に語られるべきことだとは思います。

個人的には、参政党のローカルコミュニティの雰囲気を体験したのも面白かったです。しかし、それを体験しているのが参政党員だけでなく、国民全員だったらどうだったでしょうねぇ。全員が参政党へ行って、そして揃って現実へ帰ってきたとしたら…。