やばいブログ

何がやばいのかは想像にお任せします。

【ドキュメンタリー】【配信】『ルラ・リッチ 〜LuLaRoeの光と影〜』感想 人が「商品」にされるマルチ商法

【ドキュメンタリー】【配信】『ルラ・リッチ 〜LuLaRoeの光と影〜』感想 人が「商品」にされるマルチ商法

Amazon Prime Videoで配信中の「ルラ・リッチ」というドキュメンタリービデオを観たので、感想を書いてみます。

作品紹介

  • タイトル:『ルラ・リッチ 〜LuLaRoeの光と影〜』 (原題:LuLaRich)
  • 制作:アメリカ、2021
  • 監督:ジェナー・ファースト、ジュリア・ネイソン
  • 配信URL:https://www.amazon.jp/dp/B09F713RT6

本作は、2013年に誕生し数万人もの会員を抱えたものの、限界を超えた急成長に耐えきれずわずか数年で訴訟にまで発展したマルチ商法企業、ルラローを取り上げた作品です。全4回で、1本あたりおよそ45分ほどで観れます。

被害者のインタビューや膨大な資料映像、内部ビデオなどを使ってテンポよく編集されています。マルチに嵌ってしまう人の心理や勧誘手段、問題点など手堅くまとまっており、またSNSを活用した現代的なマルチの手法について知ることもでき、勉強になると思います。ポップな雰囲気の見やすい映像なので、大学とかで流したら良さそうです。

本作の見どころは、ルラローの創業者であるスティダム夫妻が自ら出演し、インタビューに答えている点です。夫妻の言い分と実態のギャップが映像の中で次々に暴かれていく構成になっています。

以下に内容と感想を書いていきます。


内容

エピソード1「始まり」(Start-up)

初回は、ルラローの創業夫妻の生い立ちからルラロー創業、初期の活動を、本人のインタビューを中心に紹介しています。この回はほとんどが夫妻の自分語りで、正直興味のない人にはあまり面白くないと思います。マルチとしてのルラローの実態のみを知りたい方は飛ばしても良いでしょう。

ルラローを設立したのは、マーク・スティダムディアン・スティダムという夫婦です。始まると画面にいきなり本人が出てくるのでかなりびっくりしました。どうやって承諾を得たんでしょうか。

妻のディアンはかなり強烈なキャラで、常にハイテンションかつ甲高い独特の声でやたらと芝居がかった話し方をします。バービー人形みたいな濃いメイクをしていて、物凄く自分を演じるタイプなんだなあ、という印象を持ちました。

そんなディアンを制したりして冷静ぶった感じのマークですが、ディアンとの間に養子・実子含め14人もの子供を持っており、「子供同士が結婚したんだ。まあ血は繋がっていなくて同居したこともないし」笑いながら話すサイコな雰囲気もあります。最近のエロゲでも見ないぞそんなの。

  • ちなみにマークはモルモン教徒です。モルモン教は「家族」や「家系」を重視しており、中絶や避妊を禁じているため信者には子沢山の家庭がよく見られます。

ルラローの創業前、ディアンは服の転売でかなりの収入を得ていたそうで、自らも服を縫うようになり売っていたところ、客の一人から「友人にもスカートを売りたい」と言われ、夫妻は販路を広げてくれたお礼として、より高い値段で売ることを提案、この手法を他の客にも広めていくうち、ルラローの原型が完成したそうです。

…と、インタビューの中でディアンはさも偶然思いついたかのように語っているのですが、直後に挿入される裁判の証言映像で、ディアン(及びマークの両親)がアムウェイの販売員をしていたという聞き捨てならない発言が飛び出します。やはりこの二人の話はあまり信用しないほうが良さそうな感じです。

創業直後のルラローは主にマキシスカートを販売していましたが、後にレギンスを作り始めます。3番目に入会したという初期の販売員へもインタビューしていますが、「3階で販売会をやると言った人がいて、皆で段ボールを運んだのよ」などとなんだか楽しそうに話しています。

本格的に事業を拡大し始めたルラロー。どうやって会社運営のための人材を確保していったのか?宣伝ビデオでその答えがわかります。「僕たち親戚を集めて、得意分野を聞いていったんだ。それでディアンが僕に『手伝ってほしい』と言ってくれて…」息子の一人が涙を浮かべながら話していますが、要するに身内を適当に配置しただけ。不安しかない…。

しかし、マーケティング担当となったディアンの甥が開いたパーティーのおかげで新規会員が1万人を超えます。「マリオ・ロペスを呼んだんだ。値段も手頃だったし」。ガードの緩い有名人を広告塔に仕立て上げるというのはマルチの常套手段ですが、ぶっちゃけ過ぎです。

マークの口からも問題発言が。「ルラローは服ではなく人が商品なんだ」。自分には意図がよくわからなかった発言なんですが、本人はいいことを言った感じのドヤ顔です。とはいえ、この発言は図らずもマルチの本質を端的に表していると思いました。

  • なお、元の発言は「これは衣料品ビジネス(clothing business)じゃなくて人間ビジネス(people business)なんだ」みたいなニュアンスでした。

こうしてルラローは2016年、カリフォルニア州コロナに巨大な社屋を構え、本格的に事業拡大を図りました。しかし、これが転落の始まりだったのです。

エピソード2「成長」(Show-up)

第2回では、本格的マルチ企業へと発展したルラローの構造と実態が、実際の映像とインタビューを用いて暴かれます。スティダム夫妻が内輪向けに行ったウェビナーなど通常見ることのできないような映像も登場します。

  • 推測ですが、これらの映像は裁判資料を入手したのかもしれません。

前回感じた企業運営への不安は今作で回収されます。オタクっぽい見た目の元従業員のインタビューによると、会員登録作業は無料サービスのGoogleスプレッドシートに手入力していたらしく、しょっちゅう衝突が発生して作業は遅々として進まなかったようです。でも日本もこういう会社普通にありそうだなあ…。

こうしたこともあり、ルラローに申請してから登録されるまでには数ヶ月かかるのが当たり前でしたが、さんざん焦らされていくうちに、申請者の精神的な依存度が高まっていったので、会社的には結果オーライ。逆に開き直ってイベントに招いての抽選会という、それを煽るような行為も行われていました。

入会すると、段ボール箱に入った販売用のレギンス一式を購入します。一箱たったの5000ドル。夫妻は「借金はしないよう言ってある」と言い訳していますが、実際には何のフォローもなされておらず、中には母乳を売った人もいたようです。

マークはルラローの販売戦略について説明します。端的に言えば、新しいデザインを大量に投入し一種類あたりの生産点数を少なくするというものです。いわゆるファストファッションの戦略と同じですが、これは一方でマルチにとって有利に働きました。

マルチ商法はシステム上、同じ商品を継続的に購入してもらったほうが都合良いわけですが、ルラローはファストファッションの戦略を利用して服を消耗品として扱わせ、食品や化粧品などを売る従来のマルチとの差別化を図ったのです。

さらに、衣服は外部に向けて見せることのできるものです。販売員は外出時にルラローのレギンスを履くことを求められ、デザイナーには「とにかく派手な柄を」という要求がなされました。こうすることで対外的には広告として、内部ではコミュニティへの帰属意識を高め洗脳する手段として機能します。非常にうまいやり方です。

販売員達はFacebook Liveなどのライブ配信を利用して販売会を行っていました。商品番号と紹介を行い、購入者はコメントで番号を書き込んで購入します。マルチ業界にもライブコマースの波が来ていたとは知りませんでした。でも商品が手早く捌けるので確かにマルチ向きのシステムかもしれません。

皆さんご存知の通りマルチにはランクというものがあります。ルラローの場合、最初は「テーラー」、リテーラーを5人つけると「スポンサー」、スポンサーを3人つけると「トレーナー」、トレーナーを3人つけると「コーチ」、トレーナーとコーチを3人ずつつけると最上位の「メンター」に昇格できました。メンター以下の階層のことをルラローでは「チーム」と呼んでいたそうです。チーム。マルチの頻出用語が登場しました。

  • 作中では説明を省いていますが、具体的には他の販売員から署名を集めることで昇格できました。

コーチやメンターになると多額のボーナスがもらえます。インタビューにてこの話題が出ると、それまで饒舌だった夫妻は急に話をはぐらかし始めました。なぜかというと、アメリカの多くの州では販売利益よりボーナスのほうが明らかに高額の場合、ネズミ講(pyramid scheme)と判断され違法となる可能性が高まるためです。

しかし、実際にコーチやメンターであった販売員は、ボーナスによる収入は販売収入の何百倍もあったと証言。昇格してから車や家を買ったと話す人もいます。上位の会員はクルージングなどに招待されたり、特注の時計をプレゼントされたりの高待遇。すっかり身も心もルラローに染まり、車のナンバープレートを"LULAROE3"にしてしまう人も現れました。

2016年になると、ルラローの会員数は10万人に迫る勢いまで増加し、年商10億ドルを超える大企業に成長、イベントにケイティ・ペリーを呼んだり豪華客船を購入したりとこの世の春を謳歌します。しかし、破滅の時は確実に迫っていました。


ここから後半部分です。

エピソード3「膨張」(Blow-up)

第3回では、急成長に伴って浮上してきたルラローの問題点を関係者が告発していきます。

ルラローは企業理念として「家族」を強調していました。販売員になった人々も、子育てする時間を取りながら高収入を得られるという宣伝に惹かれて入会したと言います。何より幹部が創業者の親族で占められています。Facebookなどに連投される宣伝画像には「女性の味方」などとリベラルっぽい文句が並びます。

しかし、ジャーナリストが「薄っぺらいリベラル」とバッサリ斬ったとおり、スティダム夫妻の「家族」に対する価値観は実は非常に保守的なものでした。ある販売員はディアンから夫婦関係のハウツー本を勧められますが、内容は「妻は一日一度必ず夫の前で跪け」などというものでした。

夫婦で入会しメンターとなったある会員は、イベントに登壇したマークがさり気なくモルモン書の一節を諳んじたことに気づきます。なぜ気づいたかというと夫婦もモルモン教徒だったからです。実際の映像でもモルモン教の教祖であるジョセフ・スミスのエピソードを唐突に語りだすなどしており、かなり怪しい感じがします。

作中で名言はしていませんが、これらのシーンはマークがルラローの経営姿勢にモルモン教を反映させている可能性を示唆しているのではないかと思います。モルモン教もしばしばカルトとみなされる団体であり、ルラローがミニ宗教化していく過程として紹介したのかもしれません。

ルラローは頻繁にセミナーを開催していましたが、実用的な販売テクニックを教授することはほとんどなく、上位会員に話させるのは家族についてのエピソード抽象的な精神論ばかり。このへんで出てくる映像が実にマルチっぽくていい感じです。

参加者はルラローのレギンスに脚を包み、上位の販売員だった一人も当時からカルトの集会みたいだと思っていたようです。黒人の元従業員はクルージングに参加したくなかったと言います。「参加者は皆同じ見た目だった。ブロンドの白人ばかり。白人は嫌いじゃないけど、あの集団と一緒にいるのは無理」。わかります。

そして、ルラローの販路拡大は販売員たちを苦しめていきます。競争が激しくなり、人気の柄と不人気の柄の売上の差が拡大していきました。しかし販売員は購入する商品を選ぶことはできず、販売員同士での個別の売買も禁じられていたため、儲かるかどうかは完全に運。上位会員ですら販売に忙殺され家族の時間は皆無となってしまいました。

マルチの最大の問題点は儲かるか儲からないかではなく、人を必要以上に束縛することにあるというのがよくわかります。特にスティダム夫妻は会員を支配しようとする欲求が強く、その局地と言えるドン引きエピソードが語られます。

ディアンはある時からメキシコのティファナにある"Obesity Not 4 Me"(肥満は御免)という凄い名前の整形外科と懇意になったらしく、上位の販売員に胃の切除手術を強要してきたそうです。ついに他人の体に手を出してしまいました。実際に手術を勧められた一人が提供したFacebookメッセンジャーのログには勝手に渡航日程を決めようとしていた痕跡が。怖すぎ。

しかし、ルラローの快進撃も長くは続きませんでした。適当な組織、誇大宣伝、度を越した急成長といういつ破綻してもおかしくない要素の山積みだったビジネスがここから少しづつ綻んでいきます。

ある頃から、届いたレギンスがなぜかビショビショだったり、悪臭を放っていたりという事例が増えていきます。理由は一部の商品の保管場所がなくなって屋外に放置していたためだったのですが、夫妻は非を認めません。販売員向けのウェビナーにてマーク曰く「商品が臭いんじゃない、お前が臭いんだ」。そんな言い方しなくても…。

夫妻はセミナーなどを使い「相手を非難するのはネガティブな行動。まずは自分を見つめ直せ」というマルチお得意の論法で乗り切ろうとしますが、ここで会員の逆襲が始まります。Facebookに販売員同士が問題を共有するグループを作り、投稿を募ったのです。その結果、レギンスの品質問題が個人の責任とは到底言えないほど広範に発生していたことが発覚しました。

この炎上事件を期にマスコミも本格的にルラローの問題を取り上げ始めます。中でも話題になったのがレギンスのデザイン問題。新商品の乱発で次第に雑なデザインが増えていき、股間部分に模様を載せてしまう初歩的ミスが続出していました。中にはどう見てもチ○コにしか見えない柄も。これにはインタビューされていた元デザイナーも苦笑を禁じ得なかったようです。

この状況に対し、マーケティング担当だったディアンの甥は社内で問題点を直接指摘しました。ところが、その直後に彼はルラローを解雇されてしまいます。会員には「販売員に手を出したため」と説明されていましたが、本人は否定しています。証言映像にて、裁判所がディアンに彼との関係について尋ねると、こう答えました。「知りません」。家族とは…。

エピソード4「転落」(Toe-up)

最終回です。2017年以降、ルラローが抱えた様々なトラブルとその結末が描かれます。この回は販売員に加えジャーナリストや弁護士の発言が増え、スティダム夫妻へのインタビューも核心に迫る質問が増えていきます。

まず、販売員への想定問答の映像が始まります。「ルラローはネズミ講ではありません。合法的なビジネスです」。ところが、交互に挿入される社内連絡の映像では「ネズミ講をやめるべきだ。ボーナスのシステムを変えよう」。こういう意地悪な編集はドキュメンタリーの醍醐味と言えます。

世間から悪目立ちしてしまったルラローは、それまでチーム全体の購入額から算出されていたボーナスを、売上額をベースにした計算方法に変更しました。先述したようにボーナスの収入が収益のメインとなってしまうと法的にまずいので、売上を原資としたシステムであるように見せたかったようです。それでOKなのかは謎ですが…。

上位の販売員はインタビューで、このときから収入が激減したと語ります。さらに追い打ちのように返品の基準が極めて厳しくなり、多くの販売員が大量の在庫を抱えたまま破産寸前に追い込まれました。ルラローのシステムはついに崩壊したのです。

この状況に、販売員は次々にルラローを辞めていきます。これまでのインタビューで楽しげに語っていた上位会員も、自己破産したり、離婚したりという悲惨な末路を辿っていきました。そうなることがわかっていながらルラローを辞めたことについて、ある会員は言いました。「自分が正気であることを確認したかったの」。

一方、Facebookに集まった販売員達は被害者の会を結成、集団訴訟を提起しました。実は、多くの州の法律ではマルチを解約したい場合に無条件の返品・返金を保証しないことは違法とされています。これ以降、ルラローは大量の訴訟を抱えることになりました。

  • 日本の特定商取引法にも同様の規定があります。

  • スティダム夫妻もそれが違法であることは知っていたはずで、そこから考えるとボーナスシステムの変更も実際は単に支出を抑えたかったのではないかと思います。

さらにルラローの災難は続きます。レギンスの柄にネットで拾った画像の盗用が発覚、マークが懇意にしていた取引先のアパレルメーカーが料金未払を告発、解雇されたディアンの甥が元販売員に存在しない大麻ビジネスへの投資を勧誘…おい。

そしてついに2019年、ワシントン州がルラローをネズミ講として提訴しました。初回から度々引用されていた証言映像は、このときに撮影されたものです。全盛期には10万人近くいた会員は18000人に激減、ルラローはマスコミの嘲笑の的となります。

インタビューでは、改めてルラローはネズミ講ではなかったのかと迫りますが、夫妻は堂々としつつも苦しい言い訳に終始します。ある時メンターに渡した200万ドルの小切手は「個人的な表彰」、「ネズミ講をやめるべき」という幹部の発言には「ちょっと言い過ぎたのね、あの子は情熱的なのよ」。それ言い訳になってるか?

こうしてルラローは転落の道を辿って行きましたが、それに対する会員たちの複雑な思いも語られます。インタビューを受けた会員の中にはそれでもルラローを続けたいと、現在も販売員をしている人もいました。辞めた会員も、ルラローがネズミ講であったかという質問には答えたくない様子でした。

こうした反応は、一つには自分も加担してしまったのではないかという意識と、たとえ騙されていたとしても自分にとっては人生の一部であり、否定する気になれないという感情があるのだと思われます。ルラローは、個人が抱えるにはあまりに重いものを背負わせてしまったのです。

一方でルラローを恨む人もいます。元従業員の男性は自分の夢として「本社の隣にあるカフェに皆で集まって、奴らが逮捕されるところを見物したい」と語りました。前述したモルモン教徒のメンター夫婦はその後ルラローを強制解約になってしまいましたが「スティダム夫妻に何を聞きたいか」と問われ「何を聞いても無駄、どうせ嘘しか言わないし」と苦笑します。

さて、ルラローはその後どうなったのか。実はまだ営業しています集団訴訟は裁判所に認められず非公開の場で解決、ワシントン州の提訴は高額の解決金を支払って和解、彼らの所業は何ら断罪されず終わりました。ジャーナリストは、マルチ商法が法的に潰されたことはないのだと語ります。

スティダム夫妻は最後に、ルラローのビジネスがいかに素晴らしいものかを満面の笑みで語りました。そして、元従業員の男はこう述べます。「歴史は勝者によって書かれる。スタートレック:ディープ・スペース・ナインのマートク将軍の言葉だ」。この人は本当にオタクでした

  • 男性のこの発言は欧米の一部の視聴者にめちゃくちゃ受けてる様子でした。

最後にテロップで「夫妻は二回目のインタビューを拒否した」と表示され、ドキュメンタリーは終わります。

感想

全体として非常に見やすい構成になっていました。企業告発ものですが、ライティングは明るく編集もテンポが良く、どちらかと言えばアーティストのドキュメンタリーに近いポップな感じになっており重さをあまり感じません。もちろん語られるエピソードは凄まじい内容なわけですが。

また、ジャーナリストの解説などを挟んでマルチ商法を全く知らない人にもわかりやすいようになっており、冒頭でも述べましたが教育用としても使えるのではないかと思います。何しろ実例なので学習効果は抜群でしょう。

筆者が演出として注目したのは、新しい人物が登場するごとに、インタビューに入る前の雑談の映像を必ず入れている点です。それは、ルラローに関わった人々がどんなパーソナリティを持っていたのかということを暗に示す意図があったのではないかと思います。

インタビューに答える前の証言者は皆明るく冗談を言ったり、カメラ写りを気にしたりしている様子でした。また、インタビュー中にも「自分を認められたくない人っていないでしょ?」と発言したり、どちらかと言えばアクティブで承認欲求が強い人たちなのだという雰囲気を与えられます。

承認欲求を持つことは悪いことではないし、実際人には大抵そういう感情が大なり小なりあるわけですが、マルチ商法はそうした欲求を強く刺激する戦略を取り、身も心も絡め取っていくところに怖さがあるのだと思います。

しかし、そのような傾向を最も強く感じたのは社長のディアン・スティダムでした。彼女が人前で発言する時は常にオーバーな演技をとったり、マークと夫婦漫才みたいな寸劇を繰り広げたりしていて、どうしても自分の素の部分を出したくないかのような印象を受けます。

作品後半では、販売員同士がFacebookを通じて情報交換を行いルラローを追い詰めていく様子が登場しますが、ディアンはインタビューで「何が起きたか理解できない、突然皆離れていった」と発言します。マルチとしての「縦の関係」の中から、彼女の伺いしれない「横の関係」が生まれたことにショックを受けているように見えました。

そういう意味では、ディアンこそが自分の生み出したシステムに最も強く依存してしまった人物なのかもしれません。彼女はルラローを通じて、巨万の富以外に求めたいものがあったのではないかと思っています。

一方のマークは「ルラローは人が商品なんだ」と言い放ちました。しかし、人は決して商品ではありません。人には人格があり、人生があり、そして他人には決して土足で踏み込めない人間関係があるのです。

本作はAmazonスタジオ制作の作品で、Prime会員は無料で観ることができます。ドキュメンタリーはすぐ有料配信に移ってしまうことが多いですが、本作は多分そうならないと思うので、みなさんも是非気軽に鑑賞してみてください。

  • 考えてみたら、世界最大の小売企業がマルチの告発映像を作ってるわけで、凄い話です。

余談ですが、エピソード1のエンディング曲にはイン・シンクの"I Want You Back"が使われています。この曲は初期のルラローのイベントで使用されていました。実に粋な演出ですね。

You're all I ever wanted(君は僕が欲しかった全て)

You're all I ever needed, yeah(君は僕に必要だった全て)

So tell me what to do now(どうしたらいいのか教えてほしい)

When I want you back(君に戻ってきてほしいんだ)