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【陰謀論】三浦春馬他殺説ビギナーズ・ガイド(その1)

2020年7月18日、俳優の三浦春馬さんが亡くなりました。それまでドラマ中心だった活動を映画や舞台など多角的に広げ始めていた時期の早すぎる死で、社会に大きな衝撃を与えました。

三浦春馬さんの死因は一般的に自殺と結論されています。ところが、死の直後からネット上では「自殺に見せかけた他殺であり、真犯人が隠匿されている」とする陰謀論が拡散しはじめました(陰謀論が形成された経緯については以前の記事で取り上げています)。

この陰謀論は生前の所属事務所だったアミューズによって否定されて以降も拡散し続け、やがて街頭でのチラシ配りやデモ行進といった現実世界での活動を行う集団を生み出し始めます。この集団は全国に千人規模の組織を形成し、現在も活発に活動を続けています。

コロナ禍以降、神真都Qや参政党など、陰謀論を主張の軸とした団体が数多生まれましたが、この集団はそれらと比べても特異な様相を持っている一方、あまり大々的に取り上げられることがありません。

そこで今回は、界隈を1年ほどウォッチしている筆者が、簡単なまとめを作成してみます。今からでも間に合う!三浦春馬陰謀論ガイドです。

(あの鈴木エイト氏も注目!)

三浦春馬陰謀論とは

「2020年7月18日に死去した俳優の三浦春馬は、自殺ではなく何者かに殺害されており、何らかの圧力によって真相が隠蔽されている」という主張です。

同種の説は死去の報道があった直後から拡散しており、3ヶ月後の10月中旬頃には現在出回っている内容の殆どが現れています。Qアノンのような特定のインフルエンサーの影響というよりは、自然発生的に形成された、都市伝説に近い様相を持っています。

当時「三浦春馬はCIAに暗殺された」という陰謀論が話題になりましたが、時期を経た現在では既にメインストリームから外れており、最もポピュラーなのは「主犯は所属事務所のアミューズで、三浦春馬の独立を阻む過程で殺害に至った」というストーリーです。

もちろん現在まで警察が再捜査に乗り出したり、ジャーナリストが追及を行うような動きは一切ありません。その矛盾を解消するために、警察・マスコミ・芸能界・政界を巻き込んだ大陰謀の存在を主張、更にはその後に続いた芸能人の自殺を巻き込み「芸能人連続不審死事件」なる概念を提唱しています。

一方で、近年の三浦春馬陰謀論者は「他殺である」とは直接主張せず「自殺ではない」「不審死である」「真相を求めている」という曖昧な表現をする傾向があります。主張を細かく見ていくと明らかに他殺説に偏っているのですが、あくまで中立的な立場を標榜する人が多い印象です。

こうした、特定の立場を取ろうとせず「真実を求めている」と主張する論法は、かつてのアメリ同時多発テロ自作自演説の支持者、いわゆる「Truther」に近い雰囲気を感じます。コロナ禍以降の新しい陰謀論ながら、伝統的な装いを纏っているのが特徴です。

なぜそのような主張が生まれたか

この主張が生まれた経緯は以前のブログ記事にまとめていますが、大きな原因は死去直後のマスメディアの報道合戦にあると筆者は考えています。

陰謀論の根幹にあるのは、当時の報道と、後のアミューズの公式発表との間に多数の食い違いがあるという点です。通常であれば時間をかけて検証を行った後者のほうが信憑性が高いと考えるだろうし、後者の情報量が少ないのは業務上のプライバシーを守るためであろうと容易に想像がつきます。

しかし、本件の場合は初期に複数のメディアの独自取材や憶測による不確かな情報が溢れたため、後発のアミューズの発表がそれらの全てを検証するに至らず、あたかも意図的に情報を削除したように映ってしまいました。当時のマスメディアの無責任な報道姿勢は陰謀論の醸成に大きく影響したと言えます。

アミューズに対する疑義の「根拠」は「公式発表の死亡時刻より前に訃報を見たという目撃証言が多数ある」とか「死亡場所とされるクローゼットは三浦春馬の身長より低い」などといった、断片的な情報を組み合わせて一つの主張を形成する、典型的な都市伝説の類型をとっています。

チャネリング」とか「秘密文書」といったものは登場せず、何でもスピリチュアルやスーパーテクノロジーで説明しようとする近年の陰謀論とは一線を画しています。それ故に潜在的な拡散力は高いものと推定できます。

なお、陰謀論の主張する主な「根拠」についての検証は日を改めて行いたいと思います。

なぜ三浦春馬が標的になったのか

自殺した芸能人は過去にも何人もいますが、これほどまでの言説を形成した例は殆どないと思います。なぜ三浦春馬の死はここまで大きな騒動を引き起こしたのでしょうか。

特定の理由を見出すのは難しいですが、筆者が大きな要素として考えているのは、彼が亡くなったのが仕事の繁忙期であった点です。冒頭で言及したように、三浦春馬は当時活動範囲を拡大させている最中であり、年賀状には「飛躍の年」と抱負を述べ、複数のドラマや映画の出演、著書の出版、音楽活動などを行っていました。

死去の間際まで仕事が控えており、前日にはNHKのバラエティ『世界はほしいモノにあふれてる』の収録、当日はTBSのドラマ『おカネの切れ目が恋のはじまり』の撮影が予定されていました。死去の5日後には出演映画『コンフィデンスマンJP プリンセス編』が公開されています。

『カネ恋』は制作側の決定により撮影済みの素材を編集した短縮版が放送され、先述した『せかほし』やシングル、映画の公開も予定通り行われ、出演作の発表は翌年まで続きました。このように、三浦春馬死後のメディア出演が非常に多く、話題に上がる機会が多かったことが一因ではないかと考えています。

また、三浦春馬陰謀論政治的要素が組み込まれている点が他の芸能人の自殺と比して特異であると言えます。詳しくは後述しますが、こちらに関しては数人のインフルエンサー政治活動家の影響が伺われ、反ワクチンなどとの接続も見られました。

三浦春馬は生前社会活動に熱心であり、日本全国の伝統文化を取材した連載は高評価を受けていました(後に書籍『日本製』となる)。本人に陰謀論や極端な思想は特に見られませんでしたが、死後そうした活動家を誘引する要素を生んでしまったのかもしれません。

三浦春馬陰謀論の動向

三浦春馬陰謀論は当初ネット上の数多の陰謀論の中の一つとして拡散されていましたが、死後一年が経過した頃から、いくつかの人物によって組織化が行われ、現実世界での活動へと発展していきました。

筆者の知る限り、最初に三浦春馬他殺説を政治陰謀論と結びつけたのはTwitter上で「片山徹」と名乗る人物です。詳しくは以前の記事で述べていますが、片山はQアノン系の陰謀論者で、9月頃に三浦春馬が支援していたチャリティ団体と結びつけた陰謀論を投稿し、大きく拡散されました。

11月にアメリカ大統領選挙が行われ、日本でQアノンが認知されはじめました。それからまもなく行われたいわゆる「Jアノン」系のデモには、「I ♥ 三浦春馬 I ♥ TRUMP」というプラカードを掲げる参加者が出現します。一方でJアノンはその後間もなく勢いを失い、大きな流れにはなりませんでした。

(藤倉善郎による取材記事より)

現在まで続く大規模な団体の形成は2021年の中旬頃に始まっています。中心となっているのは「春馬会」と呼ばれる集団で、街頭でのチラシ配りや、アミューズ・TBSなどに対する抗議街宣路上でのデモ行進など多岐にわたる活動を繰り広げています。

メンバーの殆どは主婦層とみられており(活動時間が家事と重ならないよう配慮されている)、アクティブなメンバーだけでも全国に1000人前後は存在すると推定されます。SNS上のトレンドワードに陰謀論関連のハッシュタグを何度も押し上げるなど、全体では相当な規模の支持者がいることは間違いありません。

「彼女らは本当に三浦春馬のファンなのか?」という点はしばしば話題に上がりますが、後述する「真相究明の会」の第一回デモを取材した人物によると、「永遠の0からのファンと自称する人物もいたものの、多くは死後にファンになった」としています。

三浦春馬陰謀論が、主婦を中心に広がりを見せる要因を雨宮氏はこう分析する。 「デモ参加者に話を聞くと、生前の三浦氏の活動を知らない人もちらほら。子育てが終わった世代の女性がネットにのめり込み、たまたま正義感を駆り立てられる思想に遭遇してしまったパターンが多いのでは、と考えています」

「三浦春馬陰謀論」を唱える中年女性たちが大行進。主婦を中心に広がる理由――2022年トップ10』日刊SPA!

筆者も統計を取ったわけではないので断言はしませんが、いくつかの主要人物のSNS投稿を遡ってみると、死去当日に訃報について言及している人物はほとんどいませんでした。一方で、政治的活動を行っていた人物も皆無であり、いわゆる「普通の人」によって構成された集団であると言えます。

芸能人の死を知ってからファンになること自体は悪いことではないと思いますが、三浦春馬陰謀論者はどちらかというと三浦春馬陰謀論」のファンであって、三浦春馬はその主人公という扱いを受けているように見えます。

特徴

三浦春馬陰謀論集団の大きな特徴は「三浦春馬以外のことを言わない」という点です。神真都Qや参政党など、コロナ禍以降の陰謀論集団は反ワクチンを主軸にしつつ様々なテーマを混合しており、悪く言えばまとまりのない主張を展開しがちです。

この集団も、メンバー個々人の投稿を見る限りにはコロナやワクチンなどのポピュラーなテーマにも親和的な人物が多い印象がありますが、街頭での活動ではそれらに言及することはほとんどなく、他の集団との顕著な違いとなっています。

また、陰謀論関連のデモを観察していると、複数のデモで同じ参加者を目撃する場面にしばしば遭遇しますが、筆者の知る限り、三浦春馬陰謀論関係の人物が反ワクチンのデモに参加することは極稀にあっても、逆の例は見受けられません(単に関心を持たれていないのか、意識的に排除しているのかは不明です)。

この集団をウォッチしている別の人物によると、あるチラシ配り会では三浦春馬に関する幟を一旦撤収した後、同じ団体が装いを変えて反ワクチンの街宣を始めていたそうです。このようなテーマの「切り分け」を厳密に行っている集団は他に見たことがありません。

一方で「ガーシー騒動」「ジャニー喜多川による性加害問題」「安田種雄さん変死事件」は例外的に言及される傾向があります。前者2つは芸能界のスキャンダル、後者は「他殺を自殺と誤判断したとする主張」が共通するためと考えられます。

(2023年6月の「コロナワクチン被害者慰霊デモ」の一場面。直前まで近辺でチラシ配り会が行われており、後述するオリジナルTシャツを着用したまま参加している。上記人物によると「非常に珍しい状況」)

また、もう一つの特徴として「猜疑心の強さ」が挙げられます。この集団は自説にそぐわなかったり、対抗してくる人物を「工作員」と疑う傾向が強く、批判的な注目を浴びることを激しく拒絶しています。

反ワクチンなどの他の陰謀論集団にも同様の傾向は見られますが、この集団は他と比してもかなり極端であり、デモの際には参加者全員がサングラスやタオルで顔全体を隠していたり、デモの前景を撮影されると非常に強く抵抗します。

時に取材者に対し攻撃的になることも少なくなく、2022年5月に都内で行われたチラシ配り会を取材した藤倉善郎カメラを手で押さえられる・プラカードで殴られるといった実力行使を受けた他、翌月の「真相究明の会」のデモではウォッチャーに対し現地で「取材許可申請書」なるものを配布するという挙に出ました。

(この時はウォッチャー全員が署名を拒否し、最終的に警備担当の警察官に促され何事もなかったかのように行進を始めていました)

また、ウォッチャー向けのポイントとしては個性的すぎるオリジナルアイテムあります。主婦層がメインであることと関係しているのか、陰謀論に限らずデモ全般と比べても印刷物の割合が少なく、手作り感の漂うアイテムが目立つ印象があります。

(昨年6月のデモで参加者が持参していたやばいブツ)

他にも、(デモ自体は楽しげな雰囲気は全くありませんが)参加者はまるで文化祭のようにお揃いのオリジナルTシャツに身を包んでいます。シャツのデザインは団体ごとに異なり、どれを着ているかで所属がわかるという便利な特徴があります。

(団体別Tシャツ一覧)

登場人物

  • 水間政憲

    • 『「日本製」普及会』創設者
    • 保守系作家
    • ニコニコチャンネル「水間条項国益最前線」、YouTubeチャンネル「水間条項TV」運用
    • 三浦春馬のファンではない
    • 後述の内紛にはあまり関わっていない
  • 田中太一

  • 黒川敦彦

    • 「全春連」中心人物
    • 政治活動家
    • 「つばさの党」代表、「新しい国民の運動」代表、「政治家女子48党(旧・NHK党)」元幹事長
    • 三浦春馬のファンではない
    • 田中太一と対立

諸団体の概要

現在アクティブな活動の見られる三浦春馬陰謀論系の諸団体は主に水間政憲主催の団体と、田中太一主催の団体と、黒川敦彦が主導する団体の3種類に分かれます。お互いに複雑な関係があり、特に「春馬会」系の団体は複数の分裂が起きています。

その一方で、映像などを見る限りメンバー自体はほとんど共通であり、実質的に対立しているのはトップメンバー数名だけというのが実情だと思われます。カルト集団や過激派組織のような大規模な争いは起きていない一方、活動が分散したことで単位あたりの参加者が減少傾向にあるという印象です。

  • 「日本製」普及会

    最も早くに誕生した団体です。創設者は水間政憲という人物で、ジャーナリストを自称し二十年以上前から保守系の雑誌などに記事を寄稿している、政治界隈ではキャリアの長い比較的著名な人物です。

    水間が動画内で三浦春馬について言及し始めたのは2021年の6月頃でした。水間は三浦春馬の著書『日本製』を高く評価し、保守運動の観点から三浦春馬陰謀論に接近し始めます。7月には新たなYouTubeチャンネル『「日本製」普及Ch』を作成、同団体を立ち上げました。

    この団体の活動は毎年7月に靖国神社で行われる「みたままつり」に提灯を献納するという一点に集約されています(三浦春馬が毎年靖国神社参拝していたことが由来のようです 8.23追記:…と書きましたが、「毎年参拝」のソース門田隆将らしいので出典としての信憑性は薄いと思われます)。後述の「春馬会」誕生以降はお互いに連携しており、昨年は252灯、今年は192灯もの提灯が献納されました。単純計算で総額300万円以上に上り、この集団の規模の大きさを物語っています。

    (今年の様子。参政党よりも遥かに広いスペースを取っている)

    また、この団体には「日本みつばち隊」という水間が創設した保守系の運動団体が協力しています。「みつばち隊」は2016年頃に始まり、まもなく起きた灘中学歴史教科書採択騒動の際に当時の校長が著した論文にも名前が登場します。

    この水間氏はブログの中で「明るい日本を実現するプロジェクト」なるものを展開しているが、今回のもそのプロジェクトの一環であるようだ。ブログ中に「1000名(日本みつばち隊)の同志に呼び掛け一気呵成に、 『明るい日本を実現するプロジェクト』を推進する」とあり、いろいろな草の根運動を発案し、全国にいる同志に行動を起こすよう呼びかけていると思われる。また氏は、安倍政権の後ろ盾組織として最近よく話題に出てくる日本会議関係の研修などでしばしば講師を務めているし、東日本大震災の折には日本会議からの依頼を受けて民主党批判をブログ上で拡散したこともあるようだが、日本会議の活動は「草の根運動」が基本にあると言われており(菅野完著『日本会議の研究』扶桑社)、上述の「日本みつばち隊」もこの草の根運動員の一部なのかもしれない。

    和田孫博『謂れのない圧力の中でーーある教科書の選定について―ー』(PDF)

    この団体が他の保守系運動に参加した例は筆者の把握している限り見られませんが、後述する「春馬会」系の団体の一部メンバーは「蜜蜂会」という名前に言及しており、保守運動団体の名前が三浦春馬陰謀論に使用されているという不思議な状況が生じています。

  • 春馬会

    現状最も大規模に活動している、三浦春馬陰謀論の主力と言える団体です。元々は一部の陰謀論者含む集団が追悼イベントなどを開く形で21年中旬頃から存在していましたが、同年10月からは全国の運動体として組織化が行われました。地域によって「春馬隊」「春友会」などの名称も存在します。

    創設者は田中太一という人物で、2021年5月頃から全国各地で街宣活動を行っています。水間や後述の黒川と異なりキャリアに謎が多く、最初にネット上に現れたのは保守系作家・YouTuberの深田萌絵のコメント欄で、「TSMCから国民を守る会」を名乗っていました。

    各官庁や団体にTSMCの誘致に反対する旨のFAXを百数十万円かけて送りつけたり、平日の昼間から全国各地のチラシ配り会に顔を出すなどしており、相当な資産を持っている可能性がありますが、実態はよくわかっていません(調べると本名らしき情報が出てきますがここでは取り扱わないことにします)。

    田中が初めて三浦春馬に言及したのは2021年9月13日の大阪府警本部前で行った街宣で、「三浦かずま」と名前を間違えている点からも本人にはあまり興味が無かったことが伺えますが、一部の陰謀論者の間で支持が集まり、同月末に最初のチラシ配り会を呼びかけ、30人近くの参加者を集めたようです。

    田中自身は反ワクチンなどの活動も行っている典型的な陰謀論ですが(最近は反スマートメーターで注目を浴びていました)、春馬会には他の論点を持ち込まないようにしています。その一方、他の陰謀論勢力との折り合いが悪く、頻繁に諍いを起こしています

    この田中の性格は春馬会内部にも及んでおり、現在までに数度の抗争と内部分裂を生んでしまっています。都内で活動する派生団体には以下のものがあります。

    • 三浦春馬さん不審死真相究明の会

      通称「真相究明の会」。2022年4月に活動を開始しました。後述する「女帝問題」をきっかけに田中主導の春馬会から距離を置いた団体で、都内各所でデモ行進を中心に活動しています。この団体のデモ行進は距離が非常に長く、スピーチとシュプレヒコールを交互に淡々と行う点で、他の陰謀論系のデモとは全く様相が異なります

      また、通常の「コール&レスポンス」ではなく「コール&レスポンス&レスポンス」のようにレスポンスを2回繰り返すのが特徴で(以前リーダーに尋ねたところ、「沿道の人に伝わりやすいように」とのことでした)、「不審死事件だぞー!」という上ずったような調子の絶叫がウォッチャーの間で話題になりました。

      (昨年10月のデモの様子)

      22年下旬には黒川敦彦を活動に招き入れましたが、その後対立があり全春連との分裂を生みました。田中とは距離を置きつつも基本的には田中支持の団体でしたが、後述するトラブルによってデモの手続きなどが事実上不可能となり、体制の立て直しのため7月での活動停止を発表しています。

    • 三浦春馬さんの再捜査を求める会

      今年1月から活動を始めた団体です。関係者のSNS投稿によれば主催は東京の春馬会であり、実質的に春馬会と一体の団体と言えます。

      この団体の大きな特徴は都内の鉄道駅を中心に活動している点で、駅頭でのチラシ配りの他、幟やプラカードを所持した状態で駅構内を列をなして行進する「サイレントデモ」なる恐ろしいパフォーマンスを行っています。

      (6月の東京駅構内。利用客は怖がっていました)

      鉄道営業法35条では「鉄道係員の許諾を受けずして停車場において演説勧誘などの行為を成す」ことを禁じています。メンバーはおそらく同法を知った上で「サイレントなので合法」と考えているのかもしれませんが、筆者の目撃した例では周囲にチラシを配っており、これは「勧誘」に当たる可能性があるのではないかと思います。

      また、隊列の歩みは非常にゆっくりとしていて、時に改札の直前に陣取って利用客の通行を妨げている場面も見られました。派生団体の中でも最もデンジャラスな活動を行っている団体だと思います。

  • 全国春馬運動連合会

    通称「全春連」。今年1月より活動を始めた団体です。22年末の内紛以降黒川敦彦を支持するメンバーが立ち上げた団体で、黒川の強い影響下に置かれています。

    「日本の国力を高める運動をしている有志の会」を標榜しており、単体でのチラシ配りに加えて、黒川の主催する「新しい国民の運動」の街宣や「つばさの党」周辺の陰謀論デモと共催の「コラボデモ」を行っています。

    (「全春連」のスピーチ)

    先述したように三浦春馬陰謀論集団は他の陰謀論との接続を意識的に避けてきた歴史があり、これを覆した全春連の存在は陰謀論者の中に賛否両論を巻き起こしています

(簡単な相関図)

相次ぐ内紛

前述したように、三浦春馬陰謀論はこれまでにいくつかの内紛を起こしています。「春馬会」が主体となっているものが多く、大抵のケースは田中の猜疑心の強さに起因しているように見えます。

最初の大きな分裂は2022年3月に起きた「女帝問題」です。きっかけは前年12月のチラシ配り会で、終了後に田中がアミューズの副社長(陰謀論者の間で「女帝」と呼ばれている)がチラシを受け取った」と主張したことでした。

実際にはこの人物は一般の陰謀論支持者であり、その後本人が春馬会メンバーに直接連絡を取って訂正を求めたようなのですが、田中は頑として譲らず、メンバーとの間で大論争を生んでしまったようです。

この結果初期に春馬会を立ち上げたメンバーのうち何人かが田中から距離を取ります。東京では先述の「真相究明の会」が派生し、名古屋の主催者と福岡の主催者も別行動をとるようになります。

田中は当初3回忌である2022年7月まで運動を行うとしていましたが、この事件で疲弊したらしく3月で一線を退くことを表明しました。しかし、メンバーは3回忌以降も活動を続けており、田中もこれに参加するなど外見上はほとんど変化のない状態が続きます。

次の分裂は2022年12月に発生しています。この時期、黒川敦彦が「真相究明の会」のデモに参加し、春馬会にも接近を始めます。9月10日に行われたつばさの党主催の「統一教会解散デモ」には、春馬会のTシャツを着たメンバーが首都圏各地から駆けつけていました。

(このシャツを着たまま「おじいちゃんの代からCIA!」と歌っていた)

その後、拉致被害者奪還デモなどにも春馬会メンバーが参加するようになり、黒川側もチラシ配り会でのスピーチに参加したり、「新しい国民の運動」にデモ参加を呼びかけるなど友好関係が続き、11月頃までは田中も支持する姿勢を見せていました。

ところが、12月末に田中は突然黒川批判を始めます。その理由は、つばさの党に対し300万円の寄付を行おうとしたところ、寄付ではなくコンサルタント料としての支払いを求められたことを「詐欺」と認識したことのようでした。

実際には政治資金規正法政治団体への個人献金が年間150万円に制限されていることへの迂回策と見られますが、SNS上で生じた論争は当時NHK党党首であった立花孝志まで介入する事態となり、完全に黒川と田中は決裂、翌年からお互いの批判を繰り返すようになります。

この結果生まれたのが「全春連」で、田中はこちらの団体も敵視し、全春連と関わりを持った春馬会メンバーの批判も始めます。「三浦春馬さんの再捜査を求める会」はこれに呼応し、活動の告知では黒川との関わりがないことを明言していました。

次に事態が動いたのは6月頃で、黒川敦彦が動画内で黒川に親和的だった埼玉と千葉のグループにて田中が起こした諍いを告発し、LINEの会話記録を暴露しました。これに田中は猛反発し、黒川を「アタオカの陰謀論」などと痛烈に批判します。

これに対し黒川陣営はつばさの党の一員である杉田勇人と連携し、田中の個人情報(と思われるもの)を暴露、同月末に行われた春馬会の街宣に突撃した際の動画を公表、さらに田中の自宅前での街宣まで予告するなど激しい攻勢に出ました。

この結果、春馬会は6月25日のアミューズ株主総会開場前で行われる予定だった街宣を中止、代わりに全春連が街宣を行いましたが、この中に「真相究明の会」の主催メンバー複数人が参加していたことが判明し体制が瓦解、同会は活動を休止します。

7月13日、田中は謝罪動画を投稿、黒川批判を行った投稿を全て削除し、再び運動を退くことを表明します。今月27日に品川駅で行われるチラシ配り会は別人物が主催することになり、田中の参加は見送られました。

おそらく、ここまでお読みいただいた好事家の皆さんの大半は至極どうでも良いという感想を抱いていると思いますが、先述したようにメンバーの多くは団体を跨いで活動しているため、SNSなどをチェックする限り、当事者の多くも全く同じ思いを持っていることが伺えます。

また、全体を眺めると、パワーバランスとしてはバックグラウンドのある黒川が圧倒的に優位な一方で、本質的には後乗りであることから心情的な支持はあまり得られておらず、そもそも争い自体が当事者に理解されていない印象があります。

問題点

反ワクチンや差別思想とは異なり、三浦春馬陰謀論には市民社会に対する脅威となる要素は現時点では特に見受けられません。しかし、以下のように確実に被害者の存在する現象であり、また他の社会問題との接続性が高いことは強調しておきたいと思います。

誹謗中傷

三浦春馬陰謀論における最大の問題点は、特定の企業や芸能人が殺人事件に関与した疑いがあるとする誹謗中傷を行っている点です。

企業として主な標的になっているのは所属事務所のアミューズと、死去当日に撮影予定のあったTBSです。東京都の春馬会は定期的に両社に対し街宣活動を行っており、特にアミューズに関しては株主総会当日に街宣を行い、総会に乗り込んで主張を展開する人物も現れています。

アミューズは当初自社サイトにて拡散の中心となっていたSNSアカウントやまとめサイト名指しで批判し、法的措置を明言していました。主な対象は先述した片山で、アミューズの保養所に児童虐待を行う地下施設がある」という主張を特に問題視していました。

アミューズの施設内に、犯罪行為に使用されている地下室があるという趣旨のツイートについて、裁判所が、アミューズの施設内にそのような地下室があるという事実は認められないという判決を出しました。

裁判所が証拠として採用した資料によれば、年少者を含む多数のアーティストが所属する芸能事務所であるアミューズについての上記のような虚偽情報をアーティストや関係者が読んだ場合には、信頼関係にひびが入るおそれがあることや、年少アーティストの活躍が阻まれてしまわないかについて、アミューズの経営陣は心を痛めています。

犯罪行為に使用されている地下室があるなどと言われたアミューズの施設へは、外部からの問合わせや、それを素材にした動画を作成して再生回数を稼ごうとするユーチューバーまで出現していて、近隣住民にも迷惑が掛かっています」

塚田賢慎『三浦春馬さんの死から2年、アミューズが「ネット中傷」「陰謀論」と本気で戦うワケ』弁護士ドットコムニュース

この主張はQアノンに典型的な「脳内麻薬アドレノクロムを採取するための地下施設陰謀論に沿ったものですが、年少のタレントも多く抱えている同社にとっては業務上の風評に関わる重大な誹謗中傷となってしまいます。陰謀論の文脈がどこでも通用するとは限らないのです。

また、昨年にはタレントのサヘル・ローズSNS上で中傷被害を告発し、一部メディアに取り上げられました。彼女は先述した『せかほし』の共演者の一人で、陰謀論では三浦春馬7月18日より前に殺害された可能性が主張されているため、前日に収録された『せかほし』出演者も陰謀論の標的となっていました。

サヘル・ローズ三浦春馬陰謀論者から長期に渡り「本当の収録日は何月何日だったのか」と踏み絵のような質問を浴びせられていました。同じ共演者だったJUJUは一切無視の対応を取った一方、彼女は当初反論を行うなどしたためにヒートアップさせてしまい、正直者が馬鹿を見るような後味が悪い結果となりました。

三浦春馬と生前プライベートでの深い親交があった俳優の城田優は、訃報から1年後の2021年8月の読売新聞の記事三浦春馬について「自ら命を絶ちました」と発言したことを皮切りに陰謀論に組み込まれ、翌年3月にガーシーが動画配信で不仲説を提唱したことも重なり、現在まで激しい中傷を受け続けています。

城田は死去当日、TBSのスペシャル番組『音楽の日』出演前の楽屋で突然の訃報を知り、生放送中に声を詰まらせながら歌唱する様子が話題となりました。2022年には三浦春馬が務めていたミュージカル『キンキーブーツ』の主演を引き継ぐなど、故人の遺志を受け継ぐ活動を多くしていますが、陰謀論者からはそれらの全てを否定される状態となっています。

『カネ恋』の監督である木村ひさしは、当日のSNS上での発言が曲解され「殺害に直接関与した疑いがある」という強い中傷を受け続けています。さらに同作の画面を切り取って「虐待が行われた」「薬物が使用された」作品の価値を毀損する主張も行われています。

さらに、お笑い芸人の有吉弘行は、死去数年前の共演番組で「寿命が短そうですね」というイジりを行っていた動画が発掘されたことをきっかけに陰謀論に組み込まれています。彼はSNS上にクセの強い写真を多く投稿していますが、これらが絵解きのように扱われ、数々の「証拠」がこじつけられています。

(特に有名な2021年2月18日の「月命日」の投稿。年12回もの陰謀論チャンスがある)

有吉の投稿はその後も様々なこじつけが行われ、黒川敦彦には秘密結社イルミナティのエージェントにされてしまったり、最近ではタレントのryuchellの死に関与している、マウイ島の山火事を予言していた、など悪の帝王のような扱いを受けてしまっており非常に気の毒です。

(森羅万象を司る男)

昨今、芸能人に対する誹謗中傷問題がクローズアップされていますが、現在の我が国で特定の芸能人に長期的・組織的に最も強く誹謗中傷を行っているのがこの集団だと言えます。

マスメディアの加担

三浦春馬陰謀論は、我が国において反ワクチンやQアノンにも匹敵する大きな集団を生んでいるにも関わらず、あまりメディアに取り上げられることがありません。

活字となった例としては、ミュージシャンでライターのロマン優光の著書『嘘みたいな本当の話はだいたい嘘』(コア新書)にて十数ページを割いて取り扱われています。同書は陰謀論者の主張する主要な論点に対する検証も行われており、概要を掴むのに大変よい内容です。

他にも「怪事調査ライター」として陰謀論悪徳商法の取材を行っている雨宮純が『SPA!』2022年12月・2023年1月号の連載記事で扱っている他、同氏の共著『コンスピリチュアリティ入門』(創元社)の中でも簡単に言及されています。

三浦春馬陰謀論について批判的に取り上げた活字媒体は、筆者の知る限りこれで全てです。その一方で、陰謀論を肯定的に取り扱った記事がウェブメディアを中心に現在まで複数発表されています。

例えば三浦春馬の3回忌となる2022年7月18日に発表された、柳原三佳によるJBpressの記事は、「春馬会」系のメンバーら2人の陰謀論者と法医学教授の岩瀬博太郎を引き合わせ、日本の死因究明制度について語らうという内容でした。

日本の死因究明の実態に対し一石を投じるという記事の趣旨そのものは悪いこととは思いませんが、その出発点に三浦春馬陰謀論を持ち出すのはそれ以前の問題があると思います。ちなみに、この記事の末尾ではSNSの誹謗中傷問題を扱った別の記事がリコメンドされていました。

最近でも、今年のみたままつりの直後に発表されたNEWSポストセブンの記事で先述の『「日本製」普及会』が三浦春馬さんのファン」の活動として肯定的に取り上げられていました(なお、同媒体には三浦春馬陰謀論を批判的に取り上げた記事も存在しています)。

おそらくこれらの記事はこの集団の実態についてよく知らない記者が取り上げたものなのではないかと思われます。雑誌『創』では死後頻繁に三浦春馬に関する特集を行い、別冊のシリーズまで出ていますが、筆者の得た情報によると、ここでファンとして取り上げられた人物の一人が陰謀論デモに参加していたとのことです。

反ワクチンなどの陰謀論は一般に政治記者や社会記者が扱うため、ある程度団体の実態調査も行われやすいですが、三浦春馬陰謀論の場合は「芸能」のカテゴリとの親和性が高く、そうしたノウハウのない記者がよくわからないままに取り上げてしまう場合もあるのではないでしょうか。

また、筆者はとあるチラシ配り会の現場を観察したことがありますが、例えば神真都Qが反ワクチンのチラシを配った際と比べると明らかに命中率が高かったです。政治関係の陰謀論と比べて芸能人が題材となっている分、大衆への訴求力が高い点が厄介なところです。

最も新しい記事としては、『紙の爆弾』9月号でも三浦春馬陰謀論が扱われているようです。こちらは現状未入手ですが、他の目次を見る限り、否定的に取り上げた記事の可能性は低いように思われます。

(目次画像)

陰謀論の形成にマスメディアが大きな役割を果たした可能性については既に論じましたが、さらにそれを助長するような記事を公開するメディアが現在もなお存在することは問題だと思います。

政治への接近

先述したように、三浦春馬陰謀論集団にはある時期から黒川敦彦が関与しています。筆者が昨年のデモの現場で黒川に直接尋ねたところ、きっかけは2022年の参院選で、街頭演説を聞きに来たメンバーからアピールがあったことのようです。

「街頭演説を利用して接近する」というのはこの集団の常套手段となっています。今年7月に名古屋で行われたデモでは、近くで演説を行っていた参政党武田邦彦にアピールし、活動への賛同を得ています。

さらに、こうして得たコネクションを実際のアクションにも結びつけています。先述の黒川は、「真相究明の会」の主導で警察庁に対する質問状の作成に着手。関係破綻後も全春連に引き継がれ、NHK浜田聡参院議員を通じて提出し、回答を得ています。

これを受けて全春連は第2回の質問状の作成に着手していましたが、黒川が政治家女子48党(旧NHK党)の幹事長を解任されたため、今後の展開は不透明となっています。しかし事実として、三浦春馬陰謀論僅かながら国会議員を動かすことに成功したのです。

また、2023年1月に全春連のメンバーがつくば市のホテルで開いた昼食会には、立憲民主党青山大人衆院議員が参加しています。青山議員の地元は三浦春馬の出身地の土浦市で、同地域で活動する三浦春馬関係の団体(陰謀論との関係性は不明)のイベントに参加するなどしていました。

(全春連ブログ記事より)

この場において陰謀論が話し合われたかは現時点では不明ですが、青山議員は今年2月につくば市で開催された反ワクチンイベントに出席、昨年には参政党の神谷宗幣参院議員らと厚生労働省年少者のコロナワクチン接種の努力義務撤回を求める請願を行うなど、陰謀論との親和性は高いように思われます。

おわりに

以上、長文になりましたが、筆者が現時点で調べられた限りの三浦春馬陰謀論集団に関する情報を書き出してみました。

この集団はマスメディアにほとんど取り上げられていない上、陰謀論やカルト団体のウォッチャーの間でも追っている方が少なく、外部からは実態がなかなか見えてこないのが現状です。特に近年は集団内部での争いが激化し、その様相はさらに理解しづらいものとなっています。

その一方で、陰謀論勢力としては全国規模で数年単位の継続した活動が続いており、その他の陰謀論者の間でも、反ワクチンや親ロシアなどと肩を並べる共通言語になりつつある印象があります。

一人の俳優の死がここまでの現象を呼び起こしたのは非常に興味深いことだと感じますので、筆者はこれからも界隈の観察を続けていきたいと思います。

ここまでお読みいただいた方、お疲れ様でした。少し間を置いて、続きの記事を書きたいと思います。

(つづく)