やばいブログ

何がやばいのかは想像にお任せします。

【陰謀論】神真都Q裁判傍聴録(その1)

今月1日、反ワクチン団体「神真都Q会」のメンバー8人がワクチン接種会場の業務を妨害した疑いで逮捕され、団体の拠点となっていた建物が家宅捜索されるというニュースが入ってきました。

神真都Q(やまとキュー)は昨年10月頃、岡本一兵衛(本名:倉岡宏行)と甲兄(本名:村井大介)を中心に結成された集団で、新型コロナウイルスワクチンへの反対のみならず、「世界は爬虫類型宇宙人を中心とする闇の勢力ディープステートに裏から支配されており、自分たちは光の勢力の支援を受けた戦士である」とするQアノンに類似した陰謀論的反社会思想を持ったカルト集団です。

彼らは今年の1月から月一、二回のデモ行進を中心に活動していましたが、3月に静岡のメンバーが接種会場に押し入って業務を妨害する行為(今回摘発された事件)を始めてから東京でも同様の活動が行われ、今回を含めこれまでに合計17人が逮捕され、6人が起訴されています(さらに法人代表の村井大介の起訴が決定したとの報あり)。

この内、倉岡をはじめ5人の中心メンバーを裁いた公判が先月の17日に結審しましたが、筆者はこの裁判を傍聴してまいりましたので、現場で取ったメモをもとに内容を振り返っていきたいと思います。

(筆者撮影、7月12日)

※メモは証言の大部を記録し、書き起こしの際に記憶をもとに補完したものですので、一言一句同じ発言があったわけではありません。

そもそもどんな事件?

この裁判で扱われたのは3つの事件です。まず3月15日に東京ドームに設営された大規模接種会場で発生した事件、29日に「新宿区立元気館」で発生した事件、最後に4月7日に渋谷の「ほしなこどもクリニック」で発生した事件です。ただし逮捕・起訴された順番は逆転しています。

事実認定に関し争いはありませんでした。検察の陳述によると、彼らは接種会場に押し入った後、職員を集団で取り囲んで「人殺し」などと問い詰めスマートフォン動画を撮影、東京ドームでは中に人のいる回転扉を押し込んだり、その他2つの施設では医師を探して建物を歩き回ったり、診察中の部屋に押し入ろうとしたとされています。

検察はこれらの行為に関し「人の命を奪いかねないウイルスの防止のため、政府及び自治体から要請され行われている重大な事業の妨げになったことは看過できない」とし、被告人に懲役刑を求刑しました。

また、他の略式起訴で罰金となった被疑者と違い、犯行の中心を担っていたことや、とりわけ過激な行動に出ていたことも起訴判断に影響しているようですが、この点は弁護人との間で争いが生じています。

裁判の雰囲気

この裁判では傍聴券が交付され、抽選制となっていました。午前9時ごろ裁判所に赴くと、裁判所の外では既に神真都Qのメンバーがアピールを始めていました(彼らの様子については同じく現場を訪れたライターの黒猫ドラネコによる記事が詳しいです)。

裁判が行われたのは東京地裁の429号法廷で、ここはいわゆる「警備法廷」と呼ばれ、入口で筆記具と貴重品以外の手荷物を預ける必要があります。法廷内はテルマンのような服装の警備員が入れ代わり立ち代わり監視していて、物々しい雰囲気でした。

神真都Qのメンバーからは2人の当選者がありました。警備員にのぼりを自ら預けに行ったりと意外に素直な雰囲気でしたが、手荷物預かり所でプーチンがあしらわれたTシャツの着用を巡って若干混乱が起きていました(ちなみにこの人は静岡から来ており、上記の事件で後に逮捕されてしまいました)。

そんなこんなで、20人の傍聴席は警察関係者5、ウォッチャー4、神真都1くらいの割合で埋まっていたようです。始まる前は神真都Qの人が騒ぎを起こしてしまうのではないかとちょっと心配していましたが、前述したように割合素直だったことと、別のウォッチャーによると一人は証言を聞いてバツの悪い表情をしていたようです。

神真都Qは組織を束ねる「執行部」と、それに従って動く「支部」がありました(後述しますが、体制としては有名無実だったようです)。起訴されたのは法人の理事で「統括」の倉岡、「東京浅草支部サブリーダー」の平野、「東京新宿支部サブリーダー」の三輪高野、「千葉ブロックサブリーダー」の中川という人物です。

さらに、証人として倉岡被告人の父(俳優の岡崎二朗)、平野被告人の妻、三輪被告人の妹、高野被告人の父が出廷していました。証人尋問→本人尋問の順に進み、倉岡被告人の本人尋問の途中で1時間ほど休憩となりました。公判は合計で5時間ほどだったと記憶しています。

傍聴録

先述のとおり、被告人はいずれも起訴内容、事実関係を全面的に認めており、今回の公判では被告人の情状についての尋問が行われました。

そういうわけで、この裁判では法廷バトルというよりは、被告人の具体的エピソードや心情が多く語られましたので、この記事ではいろいろな証言をトピックごとに紹介していきたいと思います。

過激化の原因

神真都Qという集団はそもそもどのようにして生まれたのでしょうか?

公安警察が警察官向けに発行する雑誌『治安フォーラム』の2022年10月号では、巻頭で神真都Qが特集されており(神真都Qの摘発は全て警視庁公安部及び県警警備部が行っています)、そこではこのようにまとめられています。

(引用註:倉岡被告人は)令和元年9月頃から、「岡本一兵衛」名義でユーチューバーとしての活動を開始し、活動当初は、任侠劇や劇画を使用した紙芝居等を中心に動画を配信していたようである。令和3年2月頃からは、QAnonに影響を受けたとみられる動画の配信を開始し、再生回数を大きく伸ばした。 そして、同年11月頃、「覚醒プロジェクト大和帰還グリッド計画」と題した動画を配信し、…団体の立ち上げを呼びかけた結果、…神真都Qの設立に至っている。

『治安フォーラム』2022.10 p4

このように、倉岡は元々陰謀論を配信する一介のYouTuberであり、初期の神真都Q参加者は当時のファン層がスライドしてきた側面がありました。裁判では、倉岡の証人尋問で、YouTuberとしての活動方針についての興味深い証言がありました。

倉岡被告人・証人尋問

検察官:先程、教育の足りないところがあったと仰っていましたが、具体的にはどのようなところがそうだとお考えですか?
証人:勉強するのはいいことだろうと。しかし、ひねくれたことを言うことがありますね。「カラスは黒だと言えば誰も聞かない。白だと言うと何を言っているんだと聞いてくれる人がいる、そういう気持ちでYouTubeをやっている」と言っていました。

(備考:裁判を傍聴していた朝日新聞藤原学思は同じ発言を以下のように記録しています)

 「ひねくれているところがある。『カラスは黒だと言えば振り向いてもらえない。白だと言えば、(動画共有サイトの)YouTubeなどでこいつは何を言っているんだと振り向いてくれる』と」

反ワクチン「神真都Q会」にいた5人の公判 陰謀論の怖さ浮き彫りに」より抜粋

この証言からすると、倉岡は「ウケ」を考慮し、半ば故意的に陰謀論を拡散していた側面があるのではないか?と思えます。実は、逮捕前に倉岡がインタビューを受けた書籍でもこのように発言していたようです(宗教学者の塚田穂高による引用)。

しかし、個人の配信活動にとどまらず、団体を設立し、デモを行うに至ったのには後に法人の代表理事となる村井大介という人物の存在が大きかったと思われます。

倉岡被告人・本人尋問

検察官:先程、登記上はあなたは代表ではなかったという話がありましたが、実質的には村井代表理事と倉岡被告人との共同代表のような状態だったのではないですか?
被告人:先程申し上げた「甲」という人物から村井大介を「甲兄」として紹介されました。最初はデモの人を集める役割を求められていて、人を集める「統括」という立場でした。

村井は会内で絶対的な発言権があったものと思われ、今回の事件にも直接的な影響を与えていることがわかりました。

倉岡被告人・本人尋問

検察官:新宿元気館の事件では、大勢のメンバーでスタッフの方々を取り囲みました。何故そんなことをしたんですか?
被告人:カメラを沢山の人で向けることで証拠を残そうと思っていました。村井大介が「大勢でカメラを向けて録画を残す」と決めていたので。

倉岡被告人・本人尋問

検察官:デモをする時には許可をきちんと取っていましたよね?今回の事件では事前のアポイントや連絡をしていましたか?
被告人:いいえ。
検察官:それは何故ですか?
被告人:村井が「もうデモだけでは解決しない。こういうやり方もしていこう」と指示しました。自分には不本意な部分もありましたが、こういう年齢ですので、最終的には自分の意志で決めたことであることは理解しています。
検察官:不本意だと言いましたけど、あなた、LINEで東京の人たちに「行政アライアンスやりましょう」 と呼びかけていましたよね?不本意だったのではないのですか?
被告人:既に全国で始まっている状況で、統制が取れていなかったので、せめて東京の活動だけでも自分の見えるところでしてほしいという意味で投稿しました。
検察官:そういう形でいわゆる「凸」という活動をしていたわけですが、それは自分の意志だったのですか?
被告人:村井の指示で、ということもなかったわけではありませんが、最終的には自分の意志でやったことです。

「もうデモだけでは解決しない。こういうやり方もしていこう」という発言はなんとなく、かつて麻原彰晃が言ったとされる「この世はもはや救えない、これからは武力で行く」を彷彿とさせます。

倉岡の証言がいつの頃のことを指しているのかわかりませんが、村井は第2回デモの直前の時点で既に「接種会場で主張を言いまくれば警察が大勢来て会場を閉めさせられる」という助言を行い、既に実行したとする真偽不明の自慢をしています。

(ソース)

この時点では実行に移されることはありませんでしたが、冒頭に挙げたように、3月には焼津のグループが実際に接種会場を襲撃しました。

この時、団体の本部は当初「健全なる活動という大前提を無視したものであり、意図した行動ではないため注意警告する」と通達していました。ところが、その1時間後に村井からの連絡があり「全体像を見ればむしろ称賛すべき行為だった」とし、謝罪・訂正を行いました。

(ソース)

この件をきっかけに神真都Qは急速に過激な行動へ進んでいきますが、その根源はやはり村井に存在したと言って良いと思います。

村井は、自身には弟がおり、世界に散在する闇の勢力を掃討するため光の軍のメンバーとしてあちらこちらで戦っている、と会員に吹聴していました。ところが、獄中の倉岡のもとに、神真都Qの元理事で脱会したTという人物から衝撃的な報告が届いたようです。

倉岡被告人・本人尋問

弁護人:当時のTさんから伝言があったんだよね?
被告人:村井大介代表理事、ネット上のニックネームで「甲兄」というんですけど、その弟の「甲」にまず出会ったんですが、それが存在しないと、彼女によると、メールアドレスが同じだったということでした。それと寄付金を使い込んだことなども知らされ、色々と考えて、弁護人の言うことは違うのではないかと思うようになりました。

これがどの時点でのことかはわかりませんが(現在の弁護人が接見する7月6日以前のようではあります)、Tはこの時期に声明を公開しており、そこには村井についてこのように書かれています。

甲兄という存在、甲氏という存在のプレゼンは毎回超人のような存在、その能力の全てやQや軍の計画は一兵衛氏でも教えてもらえないことや、覚醒していない私たちには見えないもの。証明することが禁じられているのですから、証明を求めるのは不毛な行為と、疑問が一切なかった訳ではありませんでしたが、信じて進んでみようという中、時間は経過していきました。

神真都Q会に関わる皆さまへ      現状のご報告」より抜粋

(ちなみに、この文章には「ワクチン接種会場の襲撃に自身も参加予定だったが、虫の知らせか体調が芳しく無く、当日に断念した」という趣旨のことが書かれており、個人的にちょっとした強かさを感じてしまいます)

この時期、後に村井逮捕の遠因となった寄付金の使途について会内で紛糾し(火種となったのは神真都Qが理事に無断で株式会社化されていたこと)、当時の会内では「甲」の実在性について疑義が呈されていたりします。

(ソース)

これに対し甲兄は生配信で声明を発表していますが、肝心の「甲」については「想像にお任せします」という煮えきらない回答であり、退会者を増やす原因になったとみられています。

まあ、両方のTwitterでお互いにしょっちゅう誤爆していたりしたので、ウォッチャーは昔から全員知っていたんですけどね。

「寄付金の使い込み」は勾留中の他のメンバーにもショックを与えたようで、退会の決め手となったという証言もありました。

三輪被告人・本人尋問

弁護人:神真都Q会について今はどう思う?
被告人:許可を取ってデモをするのは、迷惑にならないので良かったと思いますが、接種会場に押しかけるとかは良くなかった行動だと思います。村井さんも私の思っているような人ではなくて、ある意味、騙されていたと思います。

三輪被告人・本人尋問

検察官:一点付け加えさせてください。先程村井代表理事を自分の思っているような人ではなかったと言いましたが、それはどういうことですか?
被告人:寄付金を引き出してどこにいったかがわからない状態にあり、金儲けというか、私達を裏切ったんだなと思いました。

中川被告人・本人尋問

検察官:退会届はどのような気持ちで書きましたか?
被告人:村井代表が悪いことをしているという話を聞いたからです。色んな団体が入ってきているということとか、お金とか入ってきて、芳しくない気がしましたから、こんな団体退会しようと思いました。

しかし、倉岡はそもそもどのようにして村井という人物と出会ったのか、村井は何者であったのか、という点はこの裁判では明らかになりませんでした。村井は公開情報から従前の活動が判明していない謎の人物で、ウォッチャーもまったく実体が掴めていません。

それらに関しては、本人の裁判及び静岡の事件で解明されることを祈ります。本人が公判でこのような情報を述べていたため、それなりに期待が持てるのではないかと思っています。

倉岡被告人・本人尋問

弁護人:仕事についてだけど、建設関係の仕事をやりたいということで、名古屋の××建設で働いているんだっけ?
被告人:会社は名古屋にあるんですが、東京で仕事がある時にふってくれるという形になっています。ただ、現在、村井が逮捕された時に大阪府警から、事情聴取をしたいと連絡があり、その期間は日を空けてもらっています。

余談ですが、この後、Tと倉岡は獄中結婚をしています。

倉岡被告人・本人尋問

弁護人:Tさんと結婚したのはなぜ?
被告人:当時は××××(旧姓)さんでしたが、逮捕された時から弁護士を通じて思いを伝えていました。その後も弁護士を紹介してくれて、やっとまともな法廷を受けられること、皆に謝罪を伝えられること、村井の目がある中で怖い思いもしていたと思うのですが、その中で皆のためになることをしてくれて、私も皆に対する責任を果たすことができるようになり、これからも支えてもらいたいと思い、また感謝しているためです。

(「その後も弁護士を紹介してくれて、やっとまともな法廷を受けられる」については後に触れます)

これらのことから現在の神真都Q(と、退会した一部の女性メンバー)においてTは蛇蝎のごとく嫌われており、Tと、同じく退会したKという人物が寄付金を持ち逃げした、という噂を立てられています。

冒頭で挙げた裁判所前のアピールも、ワクチンや闇の勢力の陰謀についてのものではなく「(KとTの名前)、金返せ!」というもので、なんというか、崩壊した学生サークルのような印象を抱きました。

崩壊する生活

裁判では中川被告人を除き、被告人の家族がいわゆる情状証人として出廷し、被告人の態度について述べました。証言からは、家族が突然陰謀論に嵌ってしまったことによる生々しいエピソードが語られていました。

倉岡被告人・証人尋問

弁護人:神真都Q会のことは知っていた?
証人:全く知りませんでした。
弁護人:話の中で、反ワクチンについての話題は出た?
証人:「親父、ワクチン打ったか?打たないほうがいいよ」というようなことは言われました。
弁護人:そう言われたときどう思った?
証人:くだらん話です。大きなお世話ですよ。思想は自由だと思いますけどね、人に強制するのはいかんことですよ。

(余談ですが、証言を行った岡崎二朗はデイリー新潮の記事によると、去年8月にコロナ感染で死去した千葉真一からも生前「二朗ちゃん、ワクチンだけは絶対に打っちゃダメだ。ワクチンで死んだら元も子もない」と言われていたりします)

証人の多くは神真都Qという団体について事件の前はほとんど知らなかったといいます。高野被告人は実家暮らしでしたが、父親は娘の活動をこのように認識していました。

高野被告人・証人尋問

弁護人:被告人の活動については知っていた?
証人:「コロナに関する活動」だと聞いていました。社会経験のある年配者が多いというので、ならよかろうと思い、注意はしませんでした。神真都Qという団体については全く知らず、逮捕の後にネットで知りました
弁護人:反ワクチンの活動ということは知らなかった?
証人:デモをしているというのは薄々知っていました。ただクリニックに押し入って、だとか、医療関係者に迷惑をかけたり、子供を怖がらせたのは家のものとして恥ずかしいです。

この「社会経験のある年配者が多いので良い」という判断は、筆者の感覚からすると全然そんなことはないだろうと思うのですが、なんとなく価値観の違いを感じた部分です。

平野被告人の妻は、被告人が反ワクチンデモに参加しているところまでは把握していたものの、接種会場の襲撃についてはSNSで知ったといいます。

平野被告人・証人尋問

弁護人:反ワクチンの活動をしているというのは知っていた?
証人:はい、デモ活動を申請しているというのを聞いて知りました。「なんてことをしているんだ」と思いました。会社の代表取締役をしていましたから、社会の体面があると思いました。
弁護人:そういうことは被告人に説得したわけ?
証人:はい。何度もしました。でも聞きませんでしたね。
弁護人:接種会場に侵入したということはどうやって知った?
証人:SNSで知りました。写真を見たので。
弁護人:それでどうしたの?
証人:もうショックすぎて、伝えられませんでした。

実は、一連の容疑者が逮捕されるまで「神真都Q」という名前を報じたメディアは皆無に近い状態でした。東京ドームの襲撃事件の直後にはBuzzFeedが事件について報じたものの「ワクチン接種に反対するグループ」「「Qアノン」関係の団体」として団体の具体名や背景については述べていませんでした。

これに対しては、当時「むやみに報道すると注目を浴びたと解釈され、かえって団体を増長させる結果になったのではないか」という意見もありました。しかし、筆者はこの点には懐疑的です。

筆者は、神真都Qのメンバーを突き動かしていたのは、承認欲求よりも「全能感」であったと考えています。彼らは、自分たちには人知れず闇の勢力と戦う「軍」がバックにあり、いざという時にはその軍が自分たちに敵対する人間を処刑船に「ピック」(連行)してくれると考えていました。

なんとなくオウム真理教の「ポア」とか連合赤軍の「総括」とかを彷彿とさせる物騒な造語ですが、前二つと違い、「ピック」にはどこか他力本願的な雰囲気が漂っています。自分たちが手を下さずとも誰かが勝手に助けてくれると言っているように聞こえます。

筆者が彼らに通底する「全能感」を最初に感じ取ったのは、1月24日の第2回全国同時デモの直後に起こったある事件でした。このデモはその異様な雰囲気からネット上で注目を浴び、その結果彼らが集うLINEのオープンチャットが不特定多数に荒らされてしまいます。その際彼らが荒らしに対して発言したのが以下です。

(ソース)

龍神天皇」とは、彼らの主張する「真の天皇」であり、太古の昔から地球を守ってきた光の存在という設定です。当時の彼らにとってオープンチャットを荒らされるというのは想像の範囲を超えた出来事だったと思います。それに対し彼らは「俺達にはこんな強い存在がバックにいるんだぞ」と威圧する道を選びました。

また、倉岡は逮捕前最後に参加した4月3日のデモで、ジャーナリストの藤倉善郎の取材に対し「(東京ドームで応対した)警察官は態度が悪かったので逮捕されました、軍に捕まっちゃいました」などと答えています(淀みなく喋っているのが怖いです)。

おそらく倉岡の発言は、実際にそう信じていたのが半分、そして過激な行動に対する会員の不安を解消したい意図が半分という感じだったのではないでしょうか。実は、神真都Qについては本件とは別の刑事裁判が進行中なのですが、そちらの被告人は「建造物侵入になるとは思っていなかった、仲間の中にも法律の話にはならなかった」と語っていたと言います。

本来なら政治運動には不可欠である法律面のサポートが全くなかった背景には、やはり「自分たちは何をしても罰されない」という根拠のない自信があったように思えます。だからこそ、前出の批判的視線に対する過剰な反発も含め、むしろ社会的な非難が必要だったのではないかと筆者は考えています。

しかしながら、彼らはそのまま犯罪行為へと突き進んでしまい、悲惨な末路を迎えてしまいました。高野被告人の父親は、帰宅しない娘を心配しネットを確認したところ逮捕されていたことを知ってしまいます

高野被告人・証人尋問

弁護人:被告人が逮捕されたことはどうやって知った?
証人:その日は家に帰ってきませんでした。何かあったのではないかと思い、検索したところ逮捕されていると知りました

そして、筆者が特に印象に残った証言は平野被告人の妻でした。事件のあった頃、彼女は命に関わる大病を患っていたのですが(現在は回復と証言)、夫が反ワクチン活動にのめり込んだことによって生活が崩壊してしまったといいます。

平野被告人・証人尋問

弁護人:逮捕されるかも、ということは思った?
証人:はい。直接そういう話を聞いていましたので。
弁護人:どういう対応だった?
証人:とにかくショックでした。
弁護人:捕まるかも、という話があったときにどういう会話をした?
証人:一緒にいられないかも知れない、と思って、会話しました。私とは思想が違う活動ですから、巻き込まれたくないということを伝えました。
弁護人:事件の後、代表取締役としての被告人はどんな感じだった?
証人:仕事が日に日におざなりになっていきましたね。私が言ってやっとするみたいな状態で。今は仕事が全くない状態です。

平野被告人・証人尋問

検察官:活動をするようになってから、ここが変わったな、と思ったエピソードはなにかありますか?
証人:「誰が一番大切なのか」と聞いたことがあります。そうしたら「世界中で殺人をしているワクチンから、子供を守りたい」と返ってきて、私が一番じゃないんだな、と思いました。気持ちが揺るがなかったです。

平野被告人・本人尋問

弁護人:奥さんの看護よりも自分の活動の方を優先する気持ちだった?
被告人:はい。
弁護人:逮捕後の奥さんの症状はどうだったの?
被告人:自分が放り出した仕事の処理をさせていたのもあり、肉体的にも、精神的にも参っていると聞いています。

また、中川被告人には唯一情状証人がいませんでした。弁護人によると、妻に出廷を要請したようですが、断られてしまったそうです。

中川被告人・本人尋問

弁護人:情状証人として奥さんにも要請をしたんだけど、来ていないよね。何故だと思う?
被告人:事件について相当なショックを受けたようで、思いっきり怒っていました。それで「なぜ出ていかなきゃいけないんだ」と突っぱねられてしまって (苦笑)。「自分一人で解決しなさい」と言われました。

中川被告人・本人尋問

検察官:奥さんが大変事件に対しお怒りになったということですが、あなたはそれについてどう思いますか?
被告人:以前からデモとかに対して注意をされておりましたが、私が何も聞かないでこのような事件を起こしましたので、「自分で解決しろ」という話になったのだと思います。来てくれないのは寂しいんですけど、私もいい年ですので (苦笑)。

中川被告人・本人尋問

弁護人:あなたが逮捕されたことで奥さんはどういう対応を取ることになった?報道関係者が自宅に来た?
被告人:それと、会社の上司なども来ました。クビ前提で、事実確認という感じでした。
弁護人:奥さんはその全部に対応したんだよね。近隣の人との付き合いの濃淡なんかは?
被告人:まあ、古い街ですから (苦笑)。二十×年くらい住んでますからね、しがらみとかはありますし、やはり、居づらくなったんじゃないでしょうか。
弁護人:それでも買い物とかはしなきゃいけないわけだけど、そういう立場であることは考えている?
被告人:はい。
弁護人:奥さんは体調が悪くなったと聞いたけど?
被告人:事件の話をすると血圧が上がったりだとか、動悸がするとか、目が痛いと、ヒステリックな感じになってしまいます。それ以外のことでは普通に話せるんですが。
弁護人:奥さんとの関係は回復できるか?
被告人:何分妻が居ないと何も出来ないものですから、回復しなきゃいけないと思っています。まじめにやっていくとか、そういうことですね。

これに関しては検察官も流石にいたたまれなくなったのか、被告人に対して慰めるような言葉をかけてやりとりを締めくくっていました。

中川被告人・本人尋問

検察官:今日、奥様は情状証人としていらしませんでしたが、それが全てではないと思います。離婚せずに一緒に暮らして頂いていることを忘れないでください。自分の犯した罪の重さや影響を感じながら暮らしていけますか?
被告人:はい。

もし、早い段階でこの団体について大きく周知され、その危険性について議論がなされていれば、もしかしたらこのような悲劇を招くこともなかったのではないか、と証言を振り返って思います。

おわりに

証言を聞くと、証人のみならず、被告人自身もなんとなく「普通の人」という感じがしました。語られるエピソードにはそれぞれの生活感が生々しく存在していて、筆者が見てきた神真都Qの外面的イメージとなんとなく乖離があったように思います。

しかし、彼らは確かにあの奇妙な集団のさなかに身を置き、しかも他の会員をまとめ上げる役目を担い、挙げ句の果てに接種会場の業務を妨害するという犯罪に手を染めてしまったのもまた事実であり、それは重く受け止めなければならないことだと思いました。

では、「普通の人」だった被告人たちは何故そのような破滅の道へ向かってしまったのか?という点については、長くなりましたので次回考察したいと思います。裁判では、この集団の本当の闇の部分が語られていました。

(つづく)